相続税・贈与税ガイド

2. 民法〈相続〉の基礎知識

相続税法は民法を基礎として法令がつくられていますので、相続税の仕組みを知るには、民法の基礎知識が求められます。

1. 相続の開始

相続は死亡によって開始し、この時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を相続人は継承します(注)。

  1. (注)被相続人の権利義務とは、被相続人の所有していた不動産、動産、預金債権、貸金債権のほか、借地権や借家権の積極財産、それに借金等の債務をいいます(使用貸借は消滅、連帯債務は継承)。

2. 相続人と法定相続分

1. 相続人

相続人
1. 被相続人に子がいるときは・・・ 相続人は
子と配偶者
2. 被相続人に子がいないときは・・・ 相続人は
父母と配偶者
3. 被相続人に子も父母もいないときは・・・ 相続人は
兄弟姉妹と配偶者
4. 被相続人に子、父母、兄弟姉妹もいないときは・・・ 相続人は
配偶者
  • ※国内に住所がないが日本国籍のある相続人などに係る相続税の納税義務について、国外財産が相続税の課税対象外とされる要件を、被相続人などおよび相続人などが相続開始前10年以内のいずれの時においても国内に住所を有しない場合とします(贈与税も同様。平成29年3月31日までは10年が5年となっています)。

2. 法定相続分

1. 子がいるとき・・・ 法定分は
配偶者1/2
子1/2(子が2人以上のときは1/2を人数分で均等)
2. 子がいないとき・・・ 法定分は
配偶者2/3
父母1/3(父母は1/3を人数分で均等)
3. 子、父母がいないとき・・・ 法定分は
配偶者3/4
兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹は1/4を人数分で均等)
  • ※父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹・・・父母の双方を同じくする兄弟姉妹がいるときは、その2分の1が相続分。

ケーススタディ

遺産総額が3億円の法定相続分を計算しますと1~5のケースでは以下のようになります。

【ケース1】配偶者と子3人

配偶者と子3人
1/2=3/6×3億円=1億5,000万円
長男1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円
長女1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円
次女1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円

【ケース2】配偶者と子3人のうち1人死亡(その子2人)

配偶者と子3人のうち1人死亡(その子2人)
1/2= 6/12×3億円=1億5,000万円
長女1/2×1/3=1/6=2/12×3億円=5,000万円
次女1/2×1/3=1/6=2/12×3億円=5,000万円
孫(A)1/2×1/3×1/2=1/12×3億円=2,500万円
孫(B)1/2×1/3×1/2=1/12×3億円=2,500万円

【ケース3】配偶者と子2人、ほかに非嫡出子1人

配偶者と子2人、ほかに非嫡出子1人
1/2= 3/6×3億円=1億5,000万円
長男1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円
長女1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円
1/2×1/3=1/6×3億円=5,000万円

【ケース4】配偶者と兄弟姉妹(子も父母もいない)

配偶者と兄弟姉妹(子も父母もいない)
3/4= 9/12×3億円=2億2,500万円
1/4×1/3=1/12×3億円=2,500万円
1/4×1/3=1/12×3億円=2,500万円
1/4×1/3=1/12×3億円=2,500万円

【ケース5】配偶者と養子

配偶者と養子
1/2×3億円=1億5,000万円
養子1/2×3億円=1億5,000万円
  • ※養子は、養子縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する

3. 遺産分割

1. 協議分割

遺産分割のもっともポピュラーな決め方が協議分割です。相続人全員が十分に話し合って遺産の分割をします。民法上は、特別に遺言のない限り、いつでも遺産分割してもいいのですが、相続税の申告が相続開始の日の翌日から10ヶ月以内ですから、これに間に合うように協議しなければなりません。
協議分割したときは、土地建物の登記や相続税申告に必要なため、「遺産分割協議書」を作成しておくとよいでしょう(自筆で署名し、実印で捺印します)。

  • ※相続人に未成年者がいるときは、「特別代理人」を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。相続人は「特別代理人」にはなれませんから、それ以外の身内や友人に頼むことになります。

2. 家庭裁判所の調停・審判

相続人間で話し合いが整わないときは、家庭裁判所で調停や審判によって分割してもらうことができます。

  • ※寄与分・・・共同相続人の中に、被相続人の事業への貢献や、療養看護など特別に寄与をした人がいるときは、寄与分を請求できます。

3. 遺言と遺留分

協議分割が相続人間の話し合いで決められるのに対して、遺言は遺言者(被相続人)の自由意思で遺産の分割を指定する方法で、これを遺贈といいます。遺言があると、「遺留分」を侵害しない限り、遺産は円満に分割できます。
この遺留分とは、相続人(兄弟姉妹にはない)の最低保証分ともいえるもので、次のような割合となっています。

相続人のケースごとの遺留分

1. 配偶者と子がいるケース

配偶者の遺留分

1/2×1/2=1/4

子どもの遺留分

1/2×1/2=1/4

子が3人のケース

1/2×1/3×1/2=1/12
2. 配偶者と親がいるケース

配偶者の遺留分

2/3×1/2=2/6=1/3

親の遺留分

1/3×1/2=1/6
3. 配偶者と兄弟姉妹がいるケース

配偶者の遺留分

1/2

兄弟姉妹

0
4. 配偶者のみのケース 1/2
5. 子のみのケース 1/2(3人とすると1人1/6)
6. 親のみのケース 1/3
7. 兄弟姉妹のみのケース 0

なお、遺言があっても受遺者が遺贈の放棄をすれば、協議分割の方法で、分割することも可能です。

遺言の種類

  1. 自筆証書
    遺言者1人で作成するもの。全文、日付、氏名を自署し、印が必要。
  2. 公正証書
    公証人に作成してもらうもの。証人が2人必要(相続人は不可)。
  3. 秘密証書
    公証役場で作成してもらうもの(弁護士、公証役場で相談を)。
  4. 特別な遺言
    遭難とか死亡の危急等。
  • ※書いた遺言はいつでも取り消すことができます。公正証書遺言以外は、相続開始後、家庭裁判所に提出して、検認を受ける必要があります。
遺言書

4. 相続の承認と放棄

相続人は遺産を引き継ぐか、放棄するかは、その人の自由です。

1. 単純承認

単純承認とは、死亡した人の権利義務(資産と負債)の一切を引き継ぐことで、これが一般的な方法です。単純承認のときは、家庭裁判所への届出は何ら必要ありません。

2. 限定承認

限定承認とは、財産に比べ借金等が多いときに、プラス財産を限度として借金等のマイナス財産を引き継ぐという限度付きの承認をいいます。この方法は、相続時に負債の確定ができないときに用いる有効な手法です。はじめからマイナスになることがはっきりしているときは「放棄」が当然、有利です。
この方法は相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に限定承認の申述書を提出するなど、複雑ですから、弁護士に相談したほうがよいでしょう。

3. 相続の放棄

相続財産がマイナスになったり、特別に相続する必要がないなど、相続を放棄するときは、家庭裁判所にその旨を申述する必要があります。これも相続の開始を知った日から3ヶ月以内となっています。
ところで、プラス財産があるときにも、遺産分割の段階で取り分をゼロとして放棄できますが、その時には家庭裁判所への申述は必要ありません。しかし、マイナス財産を放棄するときは、やはり家庭裁判所への申述が必要となります。
ただし、生命保険金は相続の放棄をしても受けとることができます。

5. 遺産が不動産のときの分割方法

遺産を実際に分割するときに、現金預金や有価証券だけならそれほど分割も難しくないでしょう。
しかし、土地や建物などの不動産を分割することになると、意外にやっかいなものです。そこで、この不動産の分割方法を考えてみましょう。

1. 現物分割

土地がA、B、C、Dとあるとき、Aは配偶者、Bは長男という具合に、一画地ごとの土地を分割するもの。または、A土地を二筆に分筆して分割することもできます。なお、次の共有分割との併用も可能です。

2. 共有分割

不動産が住宅一つというケースなどでは、通常、共有で登記しますが、これも遺産分割の一つです。
共有登記では、配偶者1/2、長男1/4、次女1/4などの比率を決めておかなければなりません。

3. 代償分割

長男が親と同居していて、その住宅を長男が引き継ぐケースでは、代償分割という手法が有効でしょう。長男が住宅を相続する代償として、次男には、長男所有の不動産や現金などを与えるというやり方です。

4. 換価分割

やはり不動産の分割法に、不動産を売却して現金で分割するという方法があります。
ケースによっては相続税のほかに譲渡所得税等(軽減特例があります。7.相続税の申告、納付、延納、物納、特例 参照)の負担も考慮する必要があります。
実務的には、1回相続登記して売却しなければなりませんので、事前に売却代金の配分比率を共有持分比率にして登記しておくことが肝要でしょう。

5. 未分割

相続したが分割が決定しないときは、分割しないで被相続人の名義のままにしておくという方法もあります。
この方法は、相続税がかからないケース(申告不要)では多く見受けられます。
相続税では、未分割のときは、法定相続分で分割されたものとして申告することになっており、後日、分割の確定した段階で、相続人間の相続税を精算することになっています。

このガイドについて

このガイドは平成29年4月1日現在の法令にもとづいて作成したものです。年度途中に新税制が成立したり、税制等が変更になったり、通達により詳細が決まったりするケースがありますのでご了承ください。
平成25年分から所得税のほかに復興特別所得税が所得税額の2.1%課税されますが、計算の都合上これを除外している場合があります。
平成31年10月1日より消費税が10%にアップされる予定ですが、経済情勢などにより延期される可能性があります。
相続税・贈与税には複雑な問題もありますので、ケースによっては、税理士・弁護士など専門家にご相談ください。

執筆・監修 税理士/中村 節弥

編集・制作/株式会社サンビー企画

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