注目しておきたい二つの税制改正~令和5年度税制改正大綱より
令和5年度税制改正大綱が昨年12月23日に閣議決定しました。今回はこの改正案のうち、不動産取引や相続において注目したい二つの改正、「空き家の3,000万円特別控除」と「相続時精算課税制度」について、税理士法人アイアセット代表税理士の石井力さんにお話しを伺いました。
空き家の3,000万円特別控除とは
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます(詳細はこちらをご参照ください )。この制度は、老朽化した空き家(昭和56年5月31日以前に建築されたもの)が放置されたままにならないようにすることを目的とした制度で、一定の耐震化あるいは更地化などが要件になっています。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
改正ポイント
石井先生によると、「これまでは、譲渡する時点で耐震基準に適合することが証明されていること、あるいは取壊し後に譲渡する必要がありました。今回の改正により、譲渡の時からその翌年2月15日までに、耐震基準に適合することとなった場合、あるいは同期間に取壊し等がされた場合も認められるようになります。」とのこと。
現行 | 令和5年度改正大綱 | |
---|---|---|
期間の延長 | 令和5年12月31日までに譲渡 | 令和9年12月31日までに譲渡 |
譲渡時要件の緩和 | 譲渡時に耐震基準に適合することが証明されている事、あるいは取り壊し後に譲渡する事 | 譲渡の時からその翌年2月15日までに、耐震基準に適合することとなった場合、あるいは同期間に取り壊し等がされた場合も認められる |
現場実務の観点からすると、この特例を使う場合、売主が耐震工事をしてから売る、あるいは更地にしてから売る必要がありましたが、買主が買った後に耐震工事を行う、あるいは更地にするという場合でも認められるということになります。売主が耐震改修をするより買主の裁量に任せて耐震工事を行うほうが契約当事者双方にとってよいのではないかと思いますので、使い勝手が良くなりそうです。十分に使えそうな家屋が存する場合、解体することなく、耐震診断と耐震工事の案を提示しながら買主探しをするということも有効になりそうです。売買契約上は、買主が耐震工事を期限内に行うことを条件にしておく必要があるでしょうから、税理士だけでなく不動産会社にも相談したほうが良さそうです。
また、石井先生によると、「緩和がある一方、課税強化もされます。相続または遺贈により被相続人居住用家屋及びその敷地を取得した相続人が3人以上である場合、それぞれの特別控除額の上限が2,000万円に減額されます。なお、いずれも令和6年1月1日以降に行われる譲渡について適用されます。」といった改正もあるようなので注意しましょう。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、贈与額が2,500万円に達するまでは贈与税はかからず、2,500万円を超えた部分は贈与税率20%で課税される制度で、暦年課税制度と並ぶ日本の贈与税の柱の一つです。贈与された財産は相続税の課税価格に加算されますので、相続時に相続税として課税されます。この制度は、子世代に資産を早めに移転してもらい消費や投資を活性化したいという意向が国にあると考えられています。なお、一般的な贈与税である暦年課税制度と違い、相続時精算課税制度は事前の手続きが必要です。また、贈与者・受贈者の関係や年齢に制限があります。一度選択すると、以後の贈与はすべてこの制度の対象です(詳細はこちら をご参照ください)。
高齢の親の保有資産のほとんどが、自宅のみで、将来、介護付き施設などを使用せざるを得ない場合には自宅を売却するというケースも考えられます。しかし、売却したいときに親の判断能力が低下している場合、住まいを売却できない場合もあります。このコラムで以前お話したように、そんな問題を回避するため、親が元気なうちに、相続時精算課税制度を利用して、子供に所有権を移転しておくことを検討される方も増えています。
改正のポイント
「相続時精算課税制度を適用している人がその年分の贈与税の計算をするとき、現行の暦年贈与に係る基礎控除とは別に、課税価格から基礎控除110万円を控除することができることになりました。また、この控除された部分については、特定贈与者(相続時精算課税制度を利用して贈与をした人)の死亡に係る相続税の課税価格にも算入されません。」と石井先生は言います。
現行 | 令和5年度改正大綱 | |
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特定贈与者からの 贈与にかかる基礎控除 |
なし | ・年間110万円 ・控除された部分は特定贈与者の死亡に 係る相続税の課税価格に参入されない。 |
例えば、父親から1,000万円の土地建物を、毎年100万円ずつ相続税精算課税制度を利用して10年にわたって贈与を受ける場合、都度100万円の控除が受けられますので、控除された1,000万円は相続発生時に相続財産に含めないでよいことになりそうですが、このように考えてもよいのでしょうか。
「改正の詳細な内容が分かりませんので何とも言えない面はありますが、理屈上はそのように考えて良いと思います。ただし、贈与を行う都度、登記手続きが必要となるなど、諸経費が別途かかりますのでご注意ください。なお、この改正については、令和6年1月1日以降に行われる譲渡について適用されます。」
相続時精算課税制度は、財産を子世代に早い段階で移転する仕組みというだけでなく、「親の判断能力低下と実家売却の問題」を回避するために、親が元気なうちに子世代に所有権を移転しておく方法としても利用されることが多くなりましたので、しっかりチェックしておきたいですね。
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利用上の注意点
石井先生によると、「相続時精算制度にはメリット以外にデメリットもあります。先の例のように親の実家を相続時精算課税制度で贈与してもらう場合、実家の土地の評価額を大きく下げることができる小規模宅地等の特例が使えなくなります。相続で実家を承継するなら課税されない不動産取得税がかかりますし、贈与時の登録免許税は相続の場合より高くなります。また、贈与を受けた子供が実家を売却する場合、そこに住んでいないならば居住用の3,000万円特別控除が使えません。さらに、親が一人で住んでいた一定の要件を満たす実家を相続で引き継いで一定期間内に売却する場合に適用できる、空き家の3,000万円特別控除も使えなくなります。」ですから、この制度を活用するなら事前に税理士などの専門家に相談しておいたほうがよいでしょう。
暦年贈与は課税強化に
一方、暦年贈与は課税強化されています。相続または遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から贈与により財産を取得した場合に、相続税 の課税価格に加算される期間はこれまで3年以内でしたが、相続開始前7年以内に延長されました。ただし、当該財産のうち、当該相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その価額 の合計額から100万円を控除した残額が加算されます。暦年贈与を検討している場合は要チェックです。
令和5年税制改正大綱は、今後、税制改正法案が国会に提出され、衆議院・参議院での審議後、令和5年3月末頃に成立する予定です。筆者は、不動産と相続関連ではこの二つが大きな改正であると考えています。空き家を承継した場合の対応、子世代への資産の移転を含めた相続への準備は多くの方に影響する可能性がありますので、今回の改正についてよく確認しておくとよいと思います。
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