親の判断能力低下と実家売却の問題

厚生労働省によると、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。こうした中、施設に入所するために実家を売却しようとしたところ、親の認知症が重くなり判断能力が大きく低下してしまったために、実家を売るに売れなくなってしまったという事例が散見されることをご存じでしょうか?

シニア世代の夫婦


不動産売却をお考えの方には、三菱UFJ不動産販売の「無料査定」がおすすめです。物件情報を入力するだけで査定額を算出いたします。お気軽にご依頼ください!

判断能力の低下がもたらす問題

高齢の両親が実家に暮らしているが、ともに認知症が進みつつあるとしましょう。手持ち現金が少なく、入所に一定の金銭が必要であるため、父親が所有する住まいの売却を考えたとします。この時に所有者である父親の判断能力が著しく低下していた場合、父親を売主とする売却は難しくなります。改正民法第3条の2 にあるように、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効となってしまうからです。

意思能力を有しないほどの状態になった場合、法定後見制度を利用することになりますがが、本人の居住用不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要となります(民法859条の3)。「居住用」とは,親が現に住居として住んでいる場合だけでなく、病院に入院していたり施設に入所したりしているため現在は住んでいないものの、将来戻って暮らす可能性がある場合なども含みます。意思能力が低下している親にとっては,居住環境の変化は心身に多大な影響を及ぼす可能性があることから、裁判所の許可が下りないというケースが多々あるようです。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

任意後見制度の利用

こうした問題を回避する方法として、任意後見制度の利用が考えられます。任意後見契約は、親の判断能力がしっかりしているうちに、信頼のおける家族や親族等に財産の管理等を委任する契約です。実際に契約の効力が発行するのは、判断能力が低下した段階で、本人や親族が家庭裁判所に後見監督人の選任を申し立て、後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じることになっています。なお、この契約は公正証書にて契約する必要があります(任意後見制度に関する法律3条)。

任意後見の場合、親名義の居住用不動産を売却処分するにあたって家庭裁判所の許可は不要となります。任意後見契約において、居住用不動産を売却処分にあたって任意後見監督人の同意を特に必要としない取り決めしている場合、後見監督人の許可なく不動産処分することも可能です。ただし、親本人の生活や身上に重大な影響を与えてしまう点や不動産の資産価値を考慮して任意後見監督人と十分な相談・協議をしながら不動産売却手続を進めていく必要はあります。

なお任意後見を利用する場合、父親が亡くなったときに、子世代に実家を相続させるよう遺言を作っておいたほうがよいケースがあります。これは判断能力が低下した母親に相続持ち分が残ると、またもや売りにくくなるという問題が発生してしまうなどの問題からです。

民事信託の利用

民事信託を利用する方法もあります。民事信託は、簡単に言うと、親が委託者兼受益者、子供などの親族が受託者となって信託契約を結び、信託契約で規定された信託目的に則って信託された自宅や金銭などの財産を受託者が管理処分するという方法です。この方法を適切に使えば、親に代わって子供が自宅の売却を行うことも可能となります。

任意後見は財産の維持管理が主目的となりますが、民事信託は投資なども可能になりますので、実家の売却だけでなく、投資や中長期的な賃貸住宅建築計画の遂行など、委託者の様々な思いを実現することができる自由度の高い仕組みと言えます。ただし民事信託は任意後見よりも費用がかかると言われています。

相続時精算課税制度の利用

この制度が使える場合、2,500万円までは贈与税がかかりませんので、親から子世代への贈与も一考です。この制度の贈与者である親が亡くなった時は、相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。ですから相続税がかからない程度の財産(基礎控除の範囲内程度)しかない場合、子供世代に自宅の所有権を移転する方法としては有効と考えられています。この仕組みを使うことができれば、いざというときに子世代が実家を売却し、親の施設入所などのための資金とすることも可能になります。

ただし、親が自ら売却すれば譲渡所得税の計算について3,000万円特別控除が使えますが、子世代に所有権が移転してしまうと、子世代が住んでいないとこの特例が使えないという問題が生じますので注意が必要です。また、不動産取得税や登録免許税は相続よりも高くなる点にも注意したほうがよいでしょう。

これら3つの方法にはそれぞれメリット・デメリットがありますし、ご家族の財産状況やご家族の意向によってどれを選択すべきかが変わってきますので、各制度に詳しい不動産会社、弁護士、司法書士、税理士などの専門家と早い段階から相談するとよいでしょう。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

両親が元気なうちに話し合いを始めよう

3つの方法について簡単に説明しましたが、いずれも意思能力がしっかりしているうちに契約を結ばなければならない点が共通しています。ですから、親が元気なうちに相談しておくことがとても大事になります。相談しにくいテーマではありますが、家族が集まる年末年始にこうした話をすることは大事だと思います。かく言う筆者も同じような課題を抱えており、年末年始は家族会議をしようと考えています。

この機会にお気軽にご相談ください!

私のお家、今いくら?
ご留意事項

本コンテンツに掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、当社の見解を示すものではありません。
本コンテンツに掲載の情報は執筆時点のものです。また、本コンテンツは執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び当社が保証するものではありません。
本コンテンツは、情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
本コンテンツに掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、当社は一切責任を負いません。
本コンテンツに掲載の情報に関するご質問には執筆者及び当社はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。