マンション相続税評価方法の適正化とその影響

マンションの相続税評価額と時価が大きく乖離していることに対する問題意識から、令和5年度与党税制改正大綱(令和4年12月16日決定)において、相続税におけるマンションの評価方法については市場価格との乖離の実態を踏まえて適正化を検討するとされていました。今年6月に適正化のための案が明らかになりましたので、今回はその内容について見ていきたいと思います。

マンション相続税評価方法の適正化とその影響

評価方法適正化の背景

マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議においては、一戸建ての場合、相続税評価額は最低でも時価(市場理論値)の6割程度にも拘わらず、マンションの場合はもっと低い水準になるケースが多く、不公平であるというのが適正化の背景となっています。

マンションは一戸建てと違って、その建物の築年数だけでなく、建物の階数、所在階によって価格は大きく異なります。例えばタワーマンションなどの高層マンションになれば、低層マンションよりもかなり市場価格が高くなりますし、高層マンションでなくても所在階が上がれば上がるほど市場価格は高くなります。しかし、現在の相続税評価方法では、建物の所在階などの特徴で評価額が変わるということがありません。また、マンション全体の敷地の持ち分が少なくなりがちで、その分評価額が低くなりやすいという特徴がありますが、市場価格においては、敷地の持ち分が少ないからといって価格が低くなるということはまずありません。

これらが、マンションの相続税評価額と時価に大きな乖離をもたらし、課税に関して不公平を生じさせているという課題認識があったのです。

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新たな評価方法案

これまでの相続税評価額の計算方法は、建物評価額(固定資産税評価額)に土地評価額(土地面積×共有持ち分×路線価等)を加算したものでした。この方法はマンションに限らず一戸建ても同様です。

新たな評価方法案は次のような算式となっています。

新たな評価額案=現行評価額×評価乖離率×最低評価水準0.6


ここで、評価乖離率とは、「時価(市場理論価格)÷現行評価額」を意味します。つまり、マンションの相続税評価額を一戸建て同様、最低でも時価の6割程度としようとしているわけです。なお、評価乖離率が1.67以下となる場合(つまり現行評価額が時価の60%を超える結果となる場合)、新たな評価額は現行評価額とします。評価乖離率が1未満(つまり時価<現行評価額)となる場合は、時価(市場理論価格)そのものを評価額とすることになります。

評価乖離率の計算式とその意味

評価乖離率の計算式は次のようになっています。

評価乖離率
=築年数×△0.033+総階数指数×0.239+所在階×0.018+敷地持分狭小度×△1.195+3.220


年数が1年増えると評価乖離率は0.033下がります。新しいほうが評価乖離率は高まるということです。総階数指数が1単位増えると評価乖離率は0.239が上がります。これは、総階数が1階増えると評価乖離率が0.00724高まることを意味します。所在階は1階上がると評価乖離率は0.018上がります。敷地持分狭小度が1単位増えると1.195減ります。敷地持分狭小度が大きいということは、マンション一室あたりの土地面積が大きいということです。建築における容積率(土地面積に対して何倍の延床面積の建物が建築可能かという指標)で考えるとわかりやすいと思います。容積率が高い地域で許容される最大建物が建っていれば、敷地持分狭小度は小さくなり引き算される値が少なくなり評価乖離率は高く、郊外などでゆったり建築されているマンションならば引き算される効果が大きくなり評価乖離率は低くなります。つまり、駅近くの中高層マンションで上層階ならば、評価乖離率は高くなる傾向があり、郊外の低層マンションならば評価乖離率はさほど高くはならないと言えそうです。

※相続税評価額が市場価格と乖離する要因となっている4つの指数

【築年数】マンション一室に係る建物の築年数。評価乖離率の式内に「築年数×△0.033」とあるので、築年数が1年増えると「1×△0.033=△0.033」なので評価乖離率は0.033下がる。

【総階数指数】マンション一室に係る建物の「総階数指数=総階数÷33」。評価乖離率の式内に「総階数指数×0.239」とあるので、総階数が1増えると「1÷33×0.239≒0.00724」なので評価乖離率は0.00724上がる。

【所在階】マンション一室の所在階。評価乖離率の式内に「所在階×0.018」とあるので、所在階が1階上がると評価乖離率は0.018上がる。

【敷地持分狭小度】「マンション一室の敷地利用権の面積÷マンション一室の専有面積」で算出。評価乖離率の式内に「敷地持分狭小度×△1.195」とあるので、敷地持分狭小度が1増えると「1×△1.195=△1.195」なので評価乖離率は1.195下がる。

個別事例で検証

以下のような3つのマンションについて、どのような影響が及ぶか検証してみました。これらは懇意にしている税理士の協力をえて実在するマンションについて少し数値を変えたうえで試算しています。以下の表は、各マンションの概要と現行の相続税評価額を算定した結果をまとめたものです。

所在 マンション全体の敷地面積(m³) 持ち分 1室あたり土地面積(m³) 専有面積
(m³)
築年数
(年)
総階数 所在階 現行の相続税評価額(円)
A:一般的なマンション 練馬区 1,000 0.0333 33 60 14 6 6 20,666,667
B:タワーマンション 中央区 3,700 0.0031 11 75 6 36 20 24,600,000
C:郊外型低層マンション 横浜市
青葉区
2,600 0.0600 156 120 26 4 4 42,100,000

これらについて、新たな評価方法で評価額を算出したものが次の表となります。

築年数 総階数指数 所在階 敷地持分
狭小度
評価
乖離率
新評価額 倍率
(新評価÷現評価)
A:一般的なマンション 14 0.182 6 0.556 2.25 27,845,014 1.35
B:タワーマンション 6 1 20 0.153 3.44 50,747,315 2.06
C:郊外型低層マンション 26 0.121 4 1.300 0.91 38,288,674 0.91

Bのタワーマンションは、築年数が新しいこともありますが、総階数指数が最大値の1であること、所在階も20階であること、そして敷地持分狭小度が0.153と他のマンションと比べると極めて低い値になっています。結果、評価乖離率は3.44となり、新評価額は現行の相続税評価額の2倍強となっています。一般的なマンションでも敷地持分狭小度は0.556となっており、できるかぎり大きな建物を建てようとした結果、階数が高くなり敷地持分狭小度も低くなったことがうかがえます。結果、評価乖離率は1.67を超えてしまい、従来の評価額よりも高い評価額となることがわかりました。

一方、Cは郊外の広い土地にゆったり建てた建物であり、結果として低層マンションとなったことから評価乖離率が1未満となっています。こうしたマンションだと、現行の評価額よりも新たな評価額のほうが低くなるという結果になっています。

まとめ

先ほどの表の「倍率」を見てみましょう。これは新しい評価額が現行評価額の何倍になっているかを示しています。Cを除き、1倍を超えていますが、高層マンションは2倍を超えています。一般的なマンションAでも35%アップしていますので、相続対策だけを目的としたマンション購入は従来のような効果が得られなくなると思います。評価方法の改正は、令和6年1月1日以後の相続等又は贈与により取得した財産に適用する前提で、今後、国税庁において通達案を作成し、意見公募手続を行う予定となっています。高層マンション等による相続税対策を行っている場合は、再点検が必要かもしれません。

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