住まい選びに欠かせないハザードマップ

先日、九州や中部地区において線状降水帯が停滞し、甚大な水害が発生しました。ここ数年、こうした甚大な豪雨被害が続いています。気象庁によれば、国内で1時間雨量が50ミリ以上の雨の平均年間発生回数は2010~19年は約327回と、統計を取り始めた最初の10年間にあたる1976~85年(約226回)の約1.4倍に増えているそうです。線形回帰分析の結果で見ると10年ごとに30回近く増加していることになります。
豪雨による災害リスクが高まる中、住まいもこうしたリスクを考慮して選ぶというのがスタンダードになりつつあると筆者は考えています。

ハザードマップ

ハザードマップをチェック

住まい選びをする際には、国交省のハザードマップポータルサイトをチェックするのがよいと思います。詳しくは、「ハザードマップポータルサイトを使ってみよう」でご説明したように、「わがまちハザードマップ」でお住まいの地域の洪水リスクや土砂災害リスクなどをチェックしましょう。その上で、「重ねるハザードマップ」で様々な追加情報を入手するとよいでしょう。
両方のハザードマップをチェックするのは、一方には載っていない情報がもう一方には載っているということがあるからです。例えば、重ねるハザードマップには台地のような高台にある地域について浸水予想データは掲載されていません。これは「内水ハザードマップ」と呼ばれるもので、わがまちハザードマップから各地方公共団体が発表している内水ハザードマップを探し出さないと見ることができない場合があるのです。こうした高台にも小さな川(あるいは暗渠)が無数にあり、排水能力以上の降雨時には浸水するリスクがあるのです。
重ねるハザードマップでは、洪水浸水想定区域には「想定最大規模」も調べることができます。わがまちハザードマップの浸水エリアよりも広くなっていることがありますので要チェックです。ちなみに筆者の住む地域は、市区町村が公開している洪水浸水想定区域には入っていませんでしたが、想定最大規模の場合は自宅のすぐ目の前まで浸水するリスクがあることを知って驚いたという経験があります。

浸水までの時間などもチェック可能

浸水リスクの有無についてはハザードマップである程度想定できますが、国土交通省の「地点別浸水シミュレーション検索システム」を利用すれば、実際に河川の堤防が決壊(破堤)した場合、浸水し始めるまでの時間や、最大浸水深に達するまでの時間をシミュレーションすることができます。

筆者の住まいの近くである北千住駅前で、荒川右岸12km地点(次の地図上の赤いバツ印部分)が破堤した場合をシミュレーションしてみました。破堤から約14分後に浸水が始まり、7時間ほど経過すると最大浸水深5m強に達すると予想されています。破堤から約1時間ごとに70cm程度、浸水深が増していくという計算になりますので、避難すべきかどうかを迷っている時間はあまりなさそうです。
このシミュレーションシステムは、浸水リスクの確認だけでなく、仮にこうした立地に暮らす場合の対策を事前に考えさせてくれる極めて有効なシステムだと思います。

「地点別浸水シミュレーション検索システム」

国土交通省「地点別浸水シミュレーション検索システム」

浸水シミュレーショングラフ

浸水シミュレーショングラフ

立ち上がった国交省

こうしたウェブサイトは、国民に対して水害リスクと身を守るための準備を促してきたわけですが、国土交通省はさらに一歩進んだ手を打ち出しました。7月6日に発表された「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」です。
災害ハザードエリアにできるだけ住まわせないための土地利用規制・誘導として、都市計画法等改正による災害ハザードエリアにおける開発抑制、同エリアからの移転促進、立地適正化計画の強化(防災指針の追加)などを施行する予定としています。
豪雨リスクが毎年高まっていく中で、財政支出を中心とした国家的な災害対応が限界に達しつつあることから、危険な地域における住宅開発を抑制し、危険地域からの移転誘導を図ろうとしているわけです。

もう一つ特筆すべきこと、不動産取引時の重要事項説明に、水害ハザードマップ上の対象物件の位置の説明を今夏までに義務化するということです。宅地建物取引業法では、住まいの賃貸や購入の際、不動産会社は借主や買主に対して、契約締結前に、その不動産に関する重要事項について説明を行わなければならないことになっていますが、洪水ハザードマップ上で浸水の可能性があっても説明義務がこれまでは課されていなかったのです。

住まい選びと暮らし方への影響

この夏以降は、事前に説明を受けられることになりますので、住まないという選択もできますし、住むならば、火災保険に水災がついていないならば追加を検討したり、これから建物を建てるというなら、基礎を高くするなどの手を打つことも可能になります。
なお、水災については、床上浸水でないと補償しない、床下浸水でかつ再調達価額の30%以上という損害がなければ補償しないなど、補償条件に差があります。また、保険金額は、実際の損害額(ただし保険金額を上限とする)が補償される商品や、損害の大きさにより段階的に補償額が決められているものなどもあるので、契約前に補償内容を確認しておくとよいでしょう。
こうした動きは、防災上安全な不動産に資金が流れるきっかけになると筆者は考えています。立地そのものの価値評価だけでなく、防災への準備がなされている建物かどうか、地域が積極的に防災への取り組みを行っているか否かといった要素が、今後の不動産価格形成要因に大きく影響するのではないかと考えています。

住まいを選ぶ際、今まで、ある意味で見て見ぬふりをしてきた事実を直視しなければならない時代にはなりましたが、リスクを受け入れ如何に対応するかで、自身の不動産価値や地域の価値を保全することができるという面も見逃せないと思います。

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