不動産投資にもマーケティングフレームワークを

投資用不動産を購入するとき、どんなことに注意して物件を選びますか?あるいは、保有している物件の入居率を高める戦術を考えるときどんな手順で考えていますか? 様々な方法があると思いますが、筆者がおすすめしている方法をご紹介します。

不動産投資にもマーケティングフレームワークを

需給状況を捉える

需要と供給の状況についてまずは確認しましょう。例えば、同じような場所に築20年の賃貸物件がいくつかあるとします。このときその近隣に、新築物件が供給されれば、新築は競争優位になる一方で、築20年の物件は競争力が相対的に低下することは直観的にも理解できると思います。また、賃貸面積についても、20m2の物件と60m2の物件しか供給されていないエリアに40m2の物件を供給すれば、需要そのものは少ないかもしれませんが供給も少ないため競争優位になるということもあるでしょう。

例としてJR中央線荻窪駅徒歩15分圏内で取引された賃貸マンションと現在募集中の賃貸マンションの数について、賃貸面積毎にどのような分布をしているかについて筆者が調べた結果を見てみましょう。取引された件数分布は需要、募集中の件数分布は供給であると仮定すると、賃貸面積20m2未満の物件は供給超過であり、競争が激しいのではないかと予想できるわけです。

中央線荻窪駅徒歩15分以内における賃貸面積別賃貸アパート需給状況

公益財団法人東日本不動産流通機構のシステムに登録された、荻窪駅徒歩15分圏内で取引された過去1年間の賃貸アパート募集データと成約データを利用し筆者作成。成約データは需要を、募集データは供給を代替するものとみなし、それぞれを正規化した(合計が1となるよう調整した)ヒストグラムを作成し需給ギャップを解釈できるようにした。

築年数別や賃料別でもこうした調査は可能なので、不動産会社に頼んでみるのも手です。市区町村別ではありますが、こうした需給状況を公開している一般の物件検索サイトもあるのでチェックしてみるとよいでしょう。需給状況を捉えることで、自分の物件が需給バランスの中で優位にあるのかないのかがある程度把握できます。もし競争優位にないならば、競争優位を作り出す方法を考えることになります。

STP分析で差別化を考える

競争優位にない、あるいは供給超過である場合、市場でどう戦うかが課題になります。そこで活用できるマーケティングフレームワークの一つとしてSTP分析というものがあります。
STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字をとったもので、市場を細分化し、顧客ターゲットを明確にしたうえで、競争市場の中でどのようなポジションをとるか(どのような差別化商品を提供するか)ということを考えていくためのフレームワークです。

まずは住まいを借りたいと考えている不特定多数の顧客をさまざまな切り口で分類します(セグメンテーション)。年齢と性別、家族構成といったシンプルなものだけですと差別化は難しくなるので、趣味嗜好、教育、学び、ライフスタイルなど分類する要素は深堀していくのがよいとされています。
セグメンテーションによって細分化された顧客の中から、ターゲットに据える顧客を選びます(ターゲティング)。どの顧客を選ぶのかは、不動産の特性、自分の持っている経験や知識、サポートしてくれる会社などのノウハウなどを活かせるか、そのターゲットにリーチできる方法(物件情報を届ける方法)やコストといった視点がポイントになります。そのためにも顧客像(ペルソナ)の行動パターンや嗜好をより具体的にイメージしていきます。
最後に競合物件と差別化を図るため、顧客に対して提供する価値を決め、対象となる不動産に対し施すべきハードまたはソフト面の内容を決めます。

事例を使ってイメージ

上述の過程について、筆者が取り扱った事例でお話ししましょう。都内ターミナル駅まで電車で約15分程度に立地する築35年木造アパート(風呂なし1K(18m2)8戸)が対象です。周辺は大学が複数あったことから学生向けワンルームが多く供給されており、20m2前後の物件供給が極めて多く競争が激しい一方、35m2程度の物件供給は極めて少ないことがわかりました。そこで、顧客ターゲットを「ターミナル駅界隈で働く20代後半の社会人で、デザインや建築、リノベーションに興味のある人。今まで暮らしていたありがちなワンルームとは異なる自分だけの唯一無二の空間で、週末には共通の嗜好を持つ友達や彼氏彼女と自宅で過ごしたいと考えている人。」と定義しました。

そこで、8戸を4戸に変更し36m2の部屋とし、天井を撤去し構造をあらわにしたシンプルな内装に仕上げ、賃借人自らが部分的なリノベーションが可能な余地(例えば自分でハンモックを吊るせる、プロのサポートは必要だがメゾネットスペースを追加できるなどの自由な余白)を残し、自分だけの空間をプロデュースできるような空間としました。そして建築系雑誌やインテリア雑誌、リノベーション物件サイト、デザインやリノベーション好きが集まるSNSなどを通じてプロモーションすることで集客を図り、短期間で近隣の築浅ワンルームマンション並みの賃料単価で満室にすることができました。十年ほど経過しても満室が続いています。

競合少なく自身の価値が評価される「ブルーオーシャン」を探す

駅近・築浅物件であれば競争優位にありますので、ここまで考えなくても有利に戦える可能性はあります。しかし、そのような物件はなかなか割安では手に入らないものですし、時間の経過とともに競争力は失われていきます。ですから、不動産投資をする以上、常に競争優位を作り出すためのアイデアを考えておく必要があると思います。その場合には、こうしたマーケティングフレームワークが利用できます。

ほかにもさまざまなフレームワークがマーケティングの世界にはありますので、自分なりに研究し実践してみるとよいと思います。不動産会社に相談しつつ、自分でもいろいろと考えてみると新たなアイデアが生まれたりするものです。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

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