原油高の先にある不動産 資産インフレと分化の行方
米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに、原油価格が再び上昇しています。こうした状況を見ると、1970年代のオイルショックを思い出す人も多いのではないでしょうか。今回は現在の原油高を端に、今後の不動産市場について考えてみたいと思います。

1970年代のオイルショックがもたらしたもの
1973年の第一次オイルショック、1979年の第二次オイルショックでは、原油価格の急騰によって典型的なコストプッシュ型インフレが発生しました。エネルギー価格の上昇は企業のコストを押し上げ、景気の減速と実質所得の低下を伴うスタグフレーションが起きたのです。
当時の日本や米国では、オイルショック直後には景気下支えのため金融緩和が行われました。しかしインフレが想定以上に加速すると、各国は一転して金融引き締めへと舵を切ります。米国ではFRB(連邦準備制度理事会)議長ポール・ボルカーのもとで政策金利が大幅に引き上げられ、インフレは抑え込まれましたが、その代償として景気は大きく落ち込みました。不動産価格の上昇もこの局面で抑えられることとなったのです。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
現在のオイルショックとの相違点
現在の日本を見ると、構図としては1970年代と似た面があると思います。中東情勢が長期化すれば、原油高を通じて資源価格が上昇し、コストプッシュ型インフレが続く可能性があります。日本では人手不足も重なり、建築費の上昇圧力は強いままとなる可能性が高いと考えられます。こうした中、金利のある世界に入ったとはいえ、依然として低金利環境が続いており、金融緩和の影響は長く残っていることから、資産インフレも続きやすい環境にあると考えられます。
歴史を振り返ると、インフレが激しくなれば、政策金利を上げるという流れになることが予想されます。しかし、1970年代と現在では決定的に異なる点があります。それは金融引き締めの余地です。1970年代には、高インフレに対して大幅な利上げを行うことが可能でした。一方、現在の日本では政府債務がGDP比で約2.5倍を超える水準に達しており、金利を大きく引き上げれば利払い負担が急増します。また、金融機関は大量の国債を保有しており、金利上昇は金融システムの不安定化にもつながりかねませんから、日銀にとって利上げは極めて慎重にならざるを得ないでしょう。
こうした制約のもとでは、ボルカー期のような強力な金融引き締めを行うことは容易ではありません。結果として、インフレを抑え込むための政策対応は限定的なものにとどまり、物価上昇圧力が長く残る可能性があると筆者は考えています。
金融緩和が続けば不動産価格は上昇し続ける
金融緩和が長く続くと、不動産や株式にお金が流れ続けます。実際、1980年代の日本では、1985年のプラザ合意による急激な円高に対応するため金融緩和が行われ、不動産や株式への資金流入が加速したことが、後のバブル形成につながったとされています。円高による景気減速を金融緩和で補う政策対応が、結果として資産価格の過剰な上昇を招いたのです。このように、金融緩和が資産価格を押し上げる構図は、歴史的にも確認されています。そして現在は、実体経済の成長は強くない一方で、金融環境は依然として緩く、資産価格には上昇圧力が残りやすい状況となっているのです。
不動産価格は三分化の方向へ
ただし、不動産市場については1970年代とは大きく異なる条件があります。それは人口構造です。当時は人口増加、都市人口の増加、世帯数の増加が同時に進み、住宅需要は強い状況にありました。一方、現在は人口減少局面に入り、世帯数も下落に転じつつあります。実際、住宅ストックは約6500万戸に対して世帯数は約5600万であり、全国的には住宅が余剰となっています。
こうした背景のもとで、住宅市場は一様ではなくなっていることが、1970年代とは大きく異なっていると筆者は感じています。近年は二極化というよりも、むしろ三層に分かれる構造が明確になりつつあるのではないでしょうか。都心部では、海外資金や富裕層資金の流入を背景に、住宅が金融商品として扱われる傾向が強まり、価格は上昇を続けています。ここでは家計の所得制約との関係は弱まりつつあるようです。一方、周辺エリアや郊外においても、主要駅周辺など一定の利便性を備えた地域では、人口流入を背景に価格は横ばいないし緩やかな上昇を示すケースが多く見られます。さらに、人口流入が乏しい地域や減少傾向にあるエリアでは、住宅需要そのものが弱く、価格は横ばいあるいは下落傾向を示しています。
日本全体で見れば資産インフレの様相を呈しているものの、その内実はこのように大きく三層に分化しているとみるべきでしょう。この三層構造は、今後の不動産市場を読み解くうえでの基本的な枠組みとなる可能性があると思います。
留意すべき資産価格調整シナリオ
もっとも、この見通しには重要な前提があります。それは低金利環境が維持されることです。しかし、この前提自体が揺らぐ可能性も指摘されています。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、米国の財政悪化やドルの基軸通貨としての地位低下を背景に、長期金利の上昇を伴う金融ショックが今後数年以内に発生する可能性があると警鐘を鳴らしています。原油高の長期化は、景気下支えのための財政支出拡大を招きやすく、その結果として国債発行の増加につながる可能性があります。供給の増加と投資家の需要変化が重なれば、国債価格の下落を通じて長期金利が上昇する構造が生まれます。その影響が大きければ、低金利に支えられてきた資産価格は見直しを迫られる可能性があります。
ロゴフ教授が指摘するのは、中央銀行が利上げを行うという従来型の金利上昇ではありません。投資家がドル資産への信認を低下させ、資金の流れを変えることで、長期金利が市場主導で上昇する可能性です。こうした金利上昇は政策で制御しにくく、資産価格に与える影響も大きいのです。
過去の資産価格の調整局面を振り返ると、その引き金は必ずしも一様ではありません。1990年代初頭の日本では、不動産向け融資に対する総量規制など政策判断が直接の契機となり、金融機関の貸し渋りを通じて市場が急速に冷え込みました。また2008年のリーマンショックでは、金融システムの機能不全により資金循環が途絶え、不動産ファンドの破綻が相次ぎました。足元では、日本銀行が大都市圏を中心とした不動産価格の上昇を背景に、不動産業向け貸出に対する金融機関の審査・管理体制を点検する方針を示しています。しかし、平成バブル崩壊時のような強力な信用抑制策が直ちに講じられる局面ではないと思われ、この動きに一喜一憂する必要はないと筆者は考えています。
これまでの危機が「信用の崩壊」であったとすれば、今回は「金利の上昇」という形で現れる可能性があると思います。米国債価格の下落を通じて長期金利が上昇すれば、その影響は世界的に波及し、低金利に支えられてきた資産価格は見直しを迫られることになるかもしれません。
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