新築分譲マンションの事業収支から見た価格高騰
近年、物価高が続いています。米の値上がりがニュースになったとき、「なぜこんなに高くなったのか」と考えると、生産者、精米業者、流通、小売など、数多くの人や作業が関わり、様々な費用が積み重なっていることに気づきます。こうした背景を知った上で食べる米は、同じ食品でも一味違った重みを感じさせるものです。
分譲マンションの価格も同じです。販売価格の裏には、土地代や建築費だけでなく、販売や宣伝にかかる費用、資金調達の金利、そして事業者の利益が折り重なっています。こうした構造を理解すると、購入価格の見方が変わってきます。今回はその事業収支を覗いてみたいと思います。
販売価格から逆算される事業収支
マンション事業はまず「土地をいくらで買うか」から始まるわけではありません。一般的には「どんな建物を建てて、いくらで売れるか」を計算し、そこから逆算して土地購入価格を決めます。例えば、延床面積4,000m²のマンション建築が可能な2,000m²の土地があるとします。このマンションの共用部を除いた販売対象面積は3,800m²とします。周辺相場が1m²あたり約142万円なら販売総額は約54億円。事業者の粗利益率を10%とすると、48.6億円で建築費・販売費・土地費用等を賄う必要があるということになります。この48.6億円を売上原価と呼びます。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
費用の内訳と「高騰の影響」
売上原価を分けると、販売経費は広告宣伝費5%程度、販売手数料3%程度と言われていますので4.3億円となります。新築分譲マンションは仲介手数料がかかりませんが、販売手数料という形で価格に織り込まれていることに注意しましょう。さらに、建築費を1m²あたり60万円とすれば24億円、設計料や役所などへの申請費用、金利などを含めると約1.6億円程度となります。残りは土地関連費用で約18.7億円となります。土地関連費用には土地取得代金、これを購入する際の仲介手数料、公租公課(固定資産税および都市計画税)、金利など)が含まれます。
販売総額 約54億円 販売対象面積3,800m² × 販売価格周辺相場(約142万円/m²) |
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粗利益率(10%) 約5.4億円 |
売上原価(90%)約48.6億円 (建築費・販売経費・土地関連費用等) | |||
建築費 (60万円/m²) 約24億円 | 販売経費(広告宣伝費・販売手数料) 約4.3億円 | 設計料・役所等申請費用・金利等 約1.6億円 | 土地関連費用(土地取得費・仲介手数料・公租公課等) 約18.7億円 |
さて、この数字を「一戸あたり」に置き換えてみましょう。販売総額54億円を、例えば約70m²の住戸54戸に分けると、1戸あたりの販売価格は約1億円です。このときの内訳は以下の通りです。
・建築費:約4,740万円
・土地費用:約3,460万円
・販売経費:約800万円
・事業者利益:約1,000万円
同じ70m²の住戸でも、実は建物代+土地代+販管費+利益がこうして積み上がっているのです。ちなみに、販売経費と事業者利益は販売価格の約18%程度です。これが高いと思う方もいらっしゃると思いますが、土地を探し、そこに価値を生むような建物を計画し、広告費を掛けてユーザーに認知してもらい、販売作業を行うということを考えると、開発に伴う価値上昇分を事業者が享受すること、それに携わる従業員に給与として配分されることにも一定の納得感が生まれるのではないでしょうか。
建築費と地価の上昇による価格への影響
こうした内訳から、建築工事費の高騰や土地価格の上昇がどの程度影響しているのかもよくわかります。一般財団法人建設物価調査会の公表データによると、鉄筋コンクリート造の集合住宅は2015年の建築費を100とすると、2025年7月時点では140にまで上昇しています。また、土地については、国土交通省が公表している不動産価格指数(東京都季節調整:住宅地)によると2015年の不動産価格の平均を100とすると、2025年平均では136.1となっています。
このマンションが2015年に販売されていたとすると、以下の価格となります。
・建築費:約3,390万円(=4,740万円÷1.4)
・土地費用:約2,540万円(=3,460万円÷1.36)
・販売経費:約580万円
・事業者利益:約720万円
これらを積み上げた販売価格は約7,230万円となります。
建築費は3,390万円、土地費用は2,540万円となり、それだけでも2025年の場合と2,270万円ほど違いがでています。さらにその他の費用も料率で計算されていることから、500万円ほど上昇しています。これが、近年の新築マンション価格高騰の内訳ということになります。
背景を知ると価格の意味が変わる
このように数字を追うと、マンション価格が土地代や建築費だけでなく、販管費や事業者の利益を含めて成り立っていることがわかります。そして近年は建築費と地価の高騰が重なり、購入者1戸あたりで2,770万円もの価格差を生んでいるのです。
米の値段の裏に生産や流通の人の姿を見て味わいが変わるように、マンション価格の裏にある事業収支を知ると、価格表記の意味が変わってきます。人生で最も大きな買い物だからこそ、「価格の背景」を理解することが、納得のいく購入につながるのではないでしょうか。
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