横ばい化する首都圏住宅価格
最近、首都圏の住宅価格が横ばい傾向にあるという声が聞かれます。お客さまの中にもそろそろ売り時ではないかと考える方も出てきています。そこで、2013年から始まった金融緩和以降の動きを概観しつつ、今実際に何が起こっているのか、そして今後はどのような動きになるのかを考察したいと思います。
戸建て・マンション価格動向の振り返り
2013年以降の首都圏住宅価格の動きを見ると、2019年以前とコロナ禍以降の2つに分けて考えることができます。2013年から2019年について見てみると、2013年1月を1とした場合、東京都のマンションは1.5倍程度、戸建ては1.15倍程度まで上昇しました。
2013年の前日銀総裁による異次元金融緩和に端を発し、住宅ローン金利が低下、住宅ローンの総返済額が縮小したことが影響して住宅価格が上昇したのです。マンションの価格上昇が顕著なのは、共稼ぎ世帯の増加が要因の一つであると筆者は考えています。2013年から2019年で共稼ぎ世帯は17%ほど増えました。共稼ぎとなると、通勤を含めた利便性を重視する傾向が強まり、戸建てよりもマンション需要が上昇したのではないかと考えています。
2020年のコロナ禍以降は、これまで以上に高い上昇率を見せていきます。戸建てにおいては東京都以外の三県も同様の動きを見せています。これは、日銀がお金の流通量(ここではM3(現金+普通預金や当座預金等+定期預金等+譲渡性預金))を増やしたからだと考えています。2013年以降は3%前後の増加率で推移していましたが、2020年春頃から急激にM3の増加率が上昇していることがわかると思います。コロナ禍による経済停滞を抑えるために、お金の流通量を一気に増やした結果、株式や不動産にお金が流れた可能性が高いと思われます。
需給均衡へと向かう
これまで上昇を続けてきた首都圏住宅価格ですが、昨年秋頃から、これまでとは少し異なる傾向が見えてきました。
戸建ては、東京都は昨年7月から、埼玉県と千葉県は12月から横ばい傾向になっています。神奈川県は上昇傾向が続いていますが、地域ごとの平均的な価格の相対水準は変化しないという考え方に立てば、東京都、千葉県、埼玉県が横ばい傾向を続ける以上、近いうちに神奈川も横ばい傾向となるでしょう。マンションは、直近で上振れ傾向を見せているものの、埼玉県が昨年10月以降、東京都は今年1月以降、横ばい傾向を示しつつあり、これまでの勢いは明らかに止まっています。この傾向が続くなら、千葉県と神奈川県も近いうちに横ばい化すると考えられます。
この動きは、需給が均衡に到達しようとする動きではないかと筆者は考えています。これ以上、金利低下は見込めない、需要も急増しない(所得が大きく増える、住宅購入人口が急増するということが考えにくい)となれば、住宅価格が均衡に向かうのは当然かもしれません。
YCCで長期金利が上昇。政策金利にいつ手を出すか?
先月28日の日銀政策決定会合において日銀は、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正を決めました。長期金利の上限は0.5%を「めど」としたうえで、市場動向に応じて0.5%をある程度超えることを容認しました。これによって、長期固定住宅ローン金利や10年固定金利などが軒並み上昇しました。ただし政策金利はこれまで通りとされているため変動金利に動きはなく、住宅市場に影響はほとんどありませんでした。
ただし、今後、日銀が日本経済の状況に鑑みながら、例えば、物価上昇が止まらない、あるいは景気が良くなるなどの状況に合わせて、政策金利を上げることは十分に考えられます。そのような経済イベントが発生すれば、均衡が破られ、首都圏住宅の価格トレンドが変わる可能性はあると思います。一方、あまり考えにくいとは思いますが、景気が良くなりつつあるにも拘わらず、緩和を継続・強化するようなことがあれば、株式や不動産にお金が引き続き流れることになり、住宅価格は再び上昇トレンドとなる可能性もあります。
希少物件は平均値では語れない面も
ここまでのお話は、戸建てとマンション価格の平均値という前提があります。現実の世界には大きなばらつきがあります。しかもそのばらつきは従来よりも大きくなっていると筆者は感じています。ですから、平均値で横ばい化が顕著になったとしても、あるいは価格低下傾向が現れたとしても、希少性の高い物件は必ずしも平均値と同じ動きを示すわけではないと考えています。
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