データで読み解く「不動産価格の動向」とその「買い時」~新型コロナ感染拡大と不動産市況~

新型コロナウイルスの感染拡大で、不動産市場は不透明感を増しています。2013年のアベノミクス以降、長期上昇傾向を示してきた不動産価格は、現状、新型コロナ禍にそれほど反応していないといいます。市況データから今後の不動産価格の動向、そして買い時はいつかを検証してみよう。

不動産価格の動向

マンションは新築・中古ともに大きく値崩れする状況ではない

新型コロナウイルスの感染拡大で、不動産市場はどう動くのか。過去の金融危機や大規模自然災害とは異なり、新型コロナは現在進行中で、いまだ収束が見通せず、予測は難しいのですが、現状においてマンション価格はコロナ禍にそれほど反応しておらず、新築・中古ともに大きく値崩れする状況にはないと見ています。

まずは近年の首都圏の不動産市場の動向を概観しておきましょう。首都圏のマンション価格は2012年末に打ち出されたアベノミクス以降、右肩上がりで推移してきました。背景として、2008年のリーマン・ショック後に体力の乏しい中小専業デベロッパーが淘汰され、価格を重視する大手デベロッパーの存在感が強まったことがあります。首都圏での大手のシェアは現在50%を超えています。

大手デベロッパーは2000年代前半までは一般向けの新築マンションを数多く供給していました。しかし近年は、富裕層、投資家、また「パワーカップル」と呼ばれる夫婦共働きで世帯年収が1500万円以上の層にターゲットを絞った販売戦略に変えてきています。中間層から下のマスマーケットは狙わず、富裕層を対象に高価格のものを、ブランド力を生かして売るという販売スタイルにシフトしているのです。

大手が手がける新築マンションは、タワーマンションのほか、23区内の山手線の内側では低層のレジデンスがメーンになっています。また、永住目的だけではなく投資目的も兼ねた「半住半投」の需要を狙い、70㎡以上のファミリータイプではなく、1LDKや2LDKの使いまわしのよいマンションを都心の一等地に、50~100戸規模の小ロットで供給しているのも特徴です。

首都圏 新築マンション供給戸数および中古マンション流通戸数の推移

資料:東京カンテイ提供

こうした大手デベロッパーの寡占化と販売戦略の転換の結果、首都圏の新築マンションの供給戸数は減少しています。2000年代前半には約10万戸あったものが、19年は約3万戸と3分の1まで減りました。一見するとこれはマーケットの冷え込みのように映りますが、価格で比較すると倍以上に増えています。坪単価でみると、首都圏の平均坪単価は、2000年は200万円以下でしたが、直近では300万円を超えています。東京だと360万円、山手線内側に限れば400万円を超えます。つまり坪単価はこの20年ほどで約1.5~2倍に増えているのです。この数字は専業デベロッパーなども含めているので、大手だけでみると、「物件数×坪単価」でみた販売額は圧倒的に大きくなっています。実際、大手デベロッパー各社の最近の業績は過去最高益を更新するなど好調です。

値下げではなく、新築マンションの供給量が激減

こうした中で起きたのが今回の新型コロナの感染拡大です。この影響でマンション市場は「フリーズ」(一時停止)状態になりました。今年3月から4月にかけて、大手デベロッパー各社はモデルルームを閉鎖したほか、仲介現場も大手仲介業者を中心に販売活動をオンライン限定にし、販売センターでは接客しない方向に切り替えました。その結果、取引現場自体が止まってしまい、新築マンションの供給量が激減しました。

この余波で首都圏の新築マンション価格は、今年4~5月に急落しました。これは市場の冷え込みではなく、大手デベロッパーの販売現場がストップしたことで高価格物件の供給量が大幅に減り、市場全体の平均価格が押し下げられた結果です。

実際、値下げは起きていません。足元では確かに値下がりのような動きが散見されますが、あくまでも個別ケースによるもので、全体のトレンドにはなっていない。コロナ禍による自粛期間を差し引いてみれば、イレギュラーな数字と解釈するのが妥当でしょう。

東京23区 流通戸数に占める価格改定シェアおよび値下げ率の推移

資料:東京カンテイ提供

※「流通戸数」とは正味の在庫数であり、同月・同一住戸での重複事例を除外して算出しているため、これらを累計して算出すると流通事例数を概して下回る。
※「価格改定シェア」とは、各月での中古マンション流通戸数のうち直近3カ月間において一度でも値下げを行った戸数の割合である。またこれら住戸において当該機関で最も高い売出価格ともっと安い売り出し価格から「値下げ率」を算出している。

自粛が緩和された6月以降、フリーズしていた現場も始動しました。まだリスタートしたばかりでデータが少なく動向は把握しきれていませんが、大手デベロッパーは夏に再開の本腰は入れず、9月以降の秋の商戦期に力を入れるとみられます。そもそも不動産は、夏は不需要期で、また、いまは売れる環境にありません。大手の販売戦略としては、前述したように数量を追うのではなく、従来の価格重視の方向で動くと思われます。

ただ、専業デベロッパーを中心に夏から値下げの動きが出てくるかもしれず、そうなれば市場価格が下がる可能性はあります。

一方、中古マンションの価格もアベノミクス以降、ほぼ右肩上がりで推移してきました。東京23区のデータでみると、中古マンションの価格は昨年まで値下げの動きがあまりなく、下げ幅も小さいものでした。しかし、今年第1、第2四半期は値下げが少し反応しています。これが単発の動きなのか、下落トレンド入りなのかは、新築マンション同様リスタートしたばかりなので判断が難しいところです。筆者は中古マンションに関しても今年上半期はイレギュラーの動きとみており、あまり参考にしないほうがよいと考えています。

ただ、中古の価格は下げ圧力が強まっているのは確かです。収入減でローン返済が困難になれば家を手放したり、富裕層でも複数の物件を所有していて、今後の下げが予想されれば、いくつかは現金化したほうが安全だという判断が働くかもしれません。実際、富裕層の間では、3月の株価急落を受けて、中古マンションの現金化を急ぐパニック的な動きが一時的にみられました。その後は株価が戻したので沈静化しましたが、再び株価が急落するようであれば、所有マンションを処分する動きが出てきてもおかしくありません。

コロナ収束のメドが立ったときが不動産市況の底か?

テレワークの増加で、にわかに注目を浴びているのが一戸建て住宅です。都心の職住近接のマンションではなく、スペースに余裕のある近郊の一戸建てを購入しようという動きが一部に出ています。ただ、郊外回帰までシフトして住宅市場の価格などに大きな影響を与えるかというと、そこまでのトレンドにはならないとみています。テレワークの可能な業種や職種は限られている上、コロナが収束すれば職場に戻る人も増えると予想されるからです。

それでもテレワーク対応の住宅は増加が見込まれます。ハウスメーカーもすでに動き出しています。家族スペースの一部をワーキングコーナーにするなど、トレンドに乗って、冷え込んだ購入者のマインドを喚起させる動きは今年下期にかけて活発化すると思います。

街並み

一戸建て住宅の価格は、マンションに比べて大きく変動しない特徴があります。買う人の予算に応じて、駅からの距離、建物の仕様、広さなどを変えて建てるからです。今後も大きな変動はないでしょう。

ここまで見てきたように不動産市場は当面、明るい材料は期待しにくいものの、大きな価格変動は起きていない状況です。また、世界的な経済危機で、コロナ以前に戻るには数年単位の時間がかかる可能性も否定できません。

ただ、今回の不況の元凶は新型コロナウイルスなので、治療薬やワクチンの実用化の見通しが立てば光明が見えてきます。いま世界を挙げて治療薬やワクチンの開発が行われています。最短では今秋だとか来年春先ともいわれています。コロナ収束のメドが立てば、ペースはどうであれ経済は復調に向かうことは間違いありません。そのあたりが不動産市況の底、つまり「買い時」か、どうかを見極める一つのポイントになりそうです。

一方で、今回ダメージをほとんど受けていない業種、人たちもいます。富裕層や、業績の安定した企業に勤めている人、夫婦ともに公務員の世帯などはコロナ前と同水準の購買力で住宅を選ぶことができるでしょう。不動産は基本的に安くなる方向にありますから、そうした人にとっていまは買い時ともいえますし、いい物件を値ごろ感で買えるチャンスと考えることができます。

逆に収入に不安がある、または減ってしまった人は、少し値下がりしたからといって無理して買うタイミングではないかもしれません。最適な選択は検討している不動産の種類によっても異なりますので、時には専門家へ相談しつつ進めることが大切です。

いずれにせよ、今年上半期の数字だけで今後を判断するのは難しいでしょう。慌てることなく8月以降の動向を見てから判断しても遅くはないでしょう。

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