地盤の良し悪しが建物損傷へ影響を及ぼすことも

2024年1月1日、大きな地震が発生した石川県能登地方では、多くの方が被災し、インフラ回復もままならない状態が続いています。また、石川県だけでなく、富山県や新潟県の住宅地でも甚大な被害がでています。今回は、既存住宅に関わることが多い筆者がいつも意識している「地盤」についてです。

地盤の良し悪しが建物損傷へ影響を及ぼすことも

地盤と建物倒壊リスクの関係

今回の住宅被害では、地盤の良くない場所で発生した液状化によるものも多かったようです。実は、建物が建っている「地盤」が地震による建物の破損や倒壊に大きく影響するということをご存知でしょうか。一般に、建物が倒壊する可能性が高いか低いかについては、以下のような関係があると言われています。

◇「地盤が良い」+「耐震性が高い」 → 倒壊リスク低
◇「地盤が悪い」+「耐震性が低い」 → 倒壊リスク高


地盤の良い悪いは、簡単に言えば地盤が硬いか軟らかいかということです。地盤が緩いと地震の揺れが増幅されるため建物損傷の可能性が高まると言われています。地盤が緩い場所は、川の近くの低地部分などが挙げられます。低地部分は川が運んできた土砂が堆積して作られていますから、高台の台地と比較すると地盤が柔らかくなっています。こうした場所は、洪水リスクがあるだけでなく、地震で揺れが増幅しやすく、液状化のリスクもあると言われています。プリンを乗せたお皿を揺らせば、プリンが大きく揺れ動きますが、そのうえに建物が建っているというイメージをすると分かりやすいかもしれません。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

地盤調査報告書などを確認する

ところが地盤が硬いのか軟らかいのかについては、一般に地盤調査を行っていないとその状態が判りません。マンションの場合は、杭を硬い支持層まで打たなければならないことになっているため、ボーリング調査を行っています。ですから設計図書に記載されている「土地柱状図」を見れば地盤の状況が確認できます。マンションは堅い支持層まで杭をしっかり打っていますから地盤が緩くても安心と考えている方もいらっしゃいますが、支持層までの距離は短いほうが揺れに強く、深いところまで掘らないと支持層に届かない場所は、地震によって揺れが増幅しやすくなると言われていますので注意が必要です。(例えば、東京都区部の東側には、支持層まで30m~50mもある場所があります。地下部分に、10階建以上の深さがある構築物があり、そのうえにマンションが建っていると考えてみてください。)

また、2000年以降の新築一戸建の場合は、建築前に地盤調査を行い、地盤が悪ければ地盤改良を行わねばならないことになっており、地盤調査報告書や地盤改良工事に関する資料があるはずですので、それを確認すれば地盤の状態が分かります。

砂州・砂丘、氾濫平野などは液状化リスクあり

問題なのは、2000年以前に建築された戸建住宅です。現在のように地盤調査義務がなかったので、地盤に関する情報は、ほとんどないと思います。本来であれば地盤改良工事を行うべき場所であっても、適切な処置がなされていないというケースもあり得ます。中古住宅を購入する場合、こうした点が気になる場合、地盤調査ほどの精度はないにせよ、国土地理院の「重ねるハザードマップ」にある「地形分類」が参考になります。このサイトでは、調べたい地点をクリックするだけで、土地の成り立ちや災害リスクが分かるようになっています。

(国土地理院「重ねるハザードマップ」の「地形分類」より)

(国土地理院「重ねるハザードマップ」の「地形分類」より)

今回、石川県の内灘町では液状化による甚大な被害があったとされています。この地域について、重ねるハザードマップの地形分類を見てみると、「砂州・砂丘」となっており、その自然災害リスクとして「縁辺部では強い地震によって液状化しやすい」と記されていました。

2011年の東日本大震災でも千葉県我孫子市の布佐地区でも液状化による甚大な被害がありましたが、この地域は自然堤防や氾濫平野となっており、「液状化のリスクがある」と記されています。一方で、その西側の布佐台など台地にあった地域は、「地盤は良く、地震の揺れや液状化のリスクは小さい」とされ、実際に建物倒壊の被害は確認されなかったと言います。

地形分類 土地の成り立ち 地形から見た自然災害リスク
砂州・砂丘 主に現在や昔の海岸・湖岸・河岸沿いにあり、周囲よりわずかに高い土地。波によって打ち上げられた砂や礫、風によって運ばれた砂が堆積することでできる。 通常の洪水では浸水を免れることが多い。縁辺部では強い地震によって液状化しやすい。
自然堤防 現在や昔の河川に沿って細長く分布し、周囲より0.5~数メートル高い土地。河川が氾濫した場所に土砂が堆積してできる。 洪水に対しては比較的安全だが、大規模な洪水では浸水することがある。縁辺部では液状化のリスクがある。
氾濫平野 起伏が小さく、低くて平坦な土地。洪水で運ばれた砂や泥などが河川周辺に堆積したり、過去の海底が干上がったりしてできる。 河川の氾濫に注意。地盤は海岸に近いほど軟弱で、地震の際にやや揺れやすい。液状化のリスクがある。沿岸部では高潮に注意。
※「重ねるハザードマップ」の地形分類(自然地形)解説一部抜粋。

高台なら安心なのか?

高台というと一般に地盤の良い台地をイメージします。台地であれば、地盤は良いし地震によって揺れが増幅しやすいということはないのですが、危険な場所もあります。今回の能登半島地震では、金沢市田上新町にある崖の脇に立っていた建物ががけ崩れで被害を受けていました。ここも「重ねるハザードマップ」に「土砂災害」をクリックして重ねてみたところ、「急傾斜地の崩壊警戒区域(指定済)(傾斜度が三十度以上である土地が崩壊する自然現象)」に該当していました。やはり高台でも崖地になっている場所は崩れる恐れがあり、警戒区域に指定されていればそのリスクは高いということが分かります。

(国土地理院「重ねるハザードマップ」の「土砂災害」より)

(国土地理院「重ねるハザードマップ」の「土砂災害」より)

リスクの回避、移転、低減、受容を考える

大きな地震が発生したら、このサイトに書かれた液状化などが必ず発生するというわけではありませんが、地震の大きさや揺れ方、そして建物の構造や耐震性能、地盤の状態などによっても結果は異なると思います。しかし、震災時に甚大な被害が起きている場所は、揺れやすい低地や崩れるリスクが指摘されているがけ地が多いというのは事実です。地震の多い島国で暮らす私たちは、土地の成り立ちを知り、そのための対応策を考えることがとても大事なのです。リスクを回避(転居)すべきなのか、リスクを低減(地盤改良や耐震性アップで対策)すべきなのか、リスクの移転(火災保険の活用)を検討すべきなのか、それともリスクをそのまま受容してもよいのか。こうした視点で、住まいを選ぶことも大事なのかもしれません。

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