新型コロナ感染拡大で「不動産価格」と「売り時」はどう変わるのか?

新型コロナウイルスの影響は、不動産市場にも確実に表れつつある。物件価格の変動も予測されるこれからの時期、不動産を売却する人にとって気になるのは「いつ売ればいいのか」という点だろう。今後の不動産価格の動きと、売り時について検証してみよう。

街並み

東京のマンション価格は2013年から長期上昇傾向

不動産価格は常に変動しながら推移している。それは株式市場と同様に、投資を目的とした資金が市場に流入することによるところが大きい。この稿では特に価格の変動幅が大きいとされる、首都圏のマンション相場を中心に見ていくことにしよう。

まず長期的な価格の動きを確認しておこう。図表1は国土交通省が不動産の取引価格情報をもとに発表している不動産価格指数から、東京都のマンション価格指数を抽出したものだ。

2007年4月を100とすると、当初は上昇していた数値が2008年に入ると下落に転じ、同年8月には100を下回った。その後も下落傾向が続いたが、2009年夏には底を打ち、2010年春以降は100前後での推移となる。

さらに2012年夏以降はいったん下落傾向となり100を下回ったが、2013年春以降は回復し、以後は現在にいたるまで右肩上がりの状態が続いている。直近の2020年3月では指数が152.8と過去最高を記録した。

不動産価格指数の推移

指数が下落した2008年には9月にリーマンショックが発生している。米国のサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)問題を契機とした金融不安は1年以上前から表面化しており、日本の不動産価格が下落したのもその影響を受けてのことだ。

一方、指数が長期的な上昇に転じた2013年は、前年の年末に発足した第2次安倍内閣によるアベノミクスが本格スタートした年だ。同年4月には日銀の黒田総裁による異次元の金融緩和もスタートし、かつてない超低金利が不動産価格を押し上げることとなる。

2月~4月に下落した中古マンション相場が5月、6月は反転上昇

次に、不動産の売り時について考えてみよう。不動産の価格相場が上下に変動することを前提に、売り時のセオリーを一般化すると以下のようになる。
 
・価格が下落している時期、または今後の下落が予測される時期は早く売ったほうがトク
・価格が上昇している時期、または今後の上昇が予測される時期は遅く売ったほうがトク
 
価格が下落している時期は、なるべく早く売らないと価格が下がってしまう。また価格が上昇していても、いわゆる「上げ止まり」の時期であれば、時間とともに価格が下がるリスクがある。逆に価格が上昇していたり、「下げ止まり」で今後の上昇が予測されるなら、すぐに売らず値上がりを待つのが得策だ。
 
ではコロナ禍のさなかにある今、不動産価格は下落局面なのか、それとも上昇局面なのか。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のデータから2020年6月までの直近の中古マンション成約m²単価の動きを見ると、同年1月までは上昇傾向が続き56.29万円となったが、2月以降は大きく下落し、4月には1月のピークから5万円以上の下落となった。感染拡大で不動産業界も営業自粛が広がり、売買が急減した影響が出た形だ。だが、5月には早くも上昇に転じ、6月も上昇して53万円台に回復している。

中古マンション成約単価の推移

不動産価格はこのまま回復に向かい、再び上昇基調に戻るのだろうか。そうだとすればセオリーどおりに少し待ってから売ったほうが高く売れてトクということになる。だが、そのようなシナリオどおりに事が進むかどうか、少し疑ってかかるほうがよさそうだ。

日銀の金融緩和により金利低下と不動産価格上昇が促進

2008年のリーマンショックの際には、不動産価格が下がり始めてから下げ止まるまでにおよそ1年半かかった。その後、不動産価格は急速には回復せず、2013年にアベノミクスが始まるまで横ばい状態が続いている。

今のコロナ禍はリーマンショックと同等か、それ以上の危機と言われる。だが、異なる点もある。リーマンショックは世界的な金融システムの危機だったが、コロナ禍では今のところ金融システムは正常に機能しており、銀行の倒産や貸し渋りといった状況には至っていない。したがって感染拡大が終息すればほどなく経済が回復し、不動産価格も下げ止まることが予測される。

アベノミクスがスタートした2013年以降は、不動産価格の右肩上がりが長期にわたって続いた。それを支えたのが日銀の金融緩和策に伴う長期金利の低下だ。長期金利はリーマンショックの前後から下落傾向となっていたが、アベノミクス以降は下落に拍車がかかり、日銀がマイナス金利政策を導入した2016年2月以降はマイナス圏に沈んだ。その後は経済状況の変化による浮き沈みはあるものの、0%前後での推移となっている。

長期金利の推移

金利が下がれば住宅ローンを利用するマイホーム購入者も、銀行融資を受ける投資家も、資金を調達しやすくなる。アベノミクスで不動産価格が上昇を続けても需要がついてこられたのは、この超低金利のおかげだ。

不動産価格が上昇したのは、日銀が市場を通じて国債を大量に買い入れる量的緩和策を進めたことによるところも大きい。日銀からの“緩和マネー”が金融機関に流れ、さらに融資を通じて不動産市場に流れ込むという構図だ。

感染が終息しても大幅なマンション価格の上昇は期待しづらい

中古マンション相場は2月~4月に落ち込んだが、5月、6月は反転上昇し、1月からの下落幅の約半分は回復した。本来であればこのまま上昇基調に戻ると考えたいところだが、このところ東京を中心に感染第2波の懸念が広がっており、先行きは予断を許さない。状況によっては相場が再び下落に転じることもあり得るだろう。

もしこのまま相場の下落が続くのであれば、手持ちの不動産はなるべく早く売り逃げたほうが得策ということになる。だがおそらくそのようにはならず、感染の終息とともに相場は回復していくだろう。なぜなら不動産市場を支える金融システムは崩壊にはいたらず、日銀による金融緩和策も継続される見通しだからだ。

とはいえ、1月までのような上昇基調が今後も続くかというと、こちらも不透明だ。マンション価格は新築・中古とも上昇傾向が長期化し、特に東京都心では過熱感が出ているとの指摘もあった。コロナ禍で市場のマインドが冷え込めば、相場上昇を支えた投資熱が再燃することはないかもしれない。

また日銀による金融緩和策は当面続くと予測されるが、長期金利はすでに0%近辺で横ばい状態となっており、これ以上の大幅な低下は望みにくい。日銀による長期国債の買い入れペースも鈍ってきており、保有残高の伸びは頭打ち傾向だ。「黒田バズーカ砲」とも言われた異次元の金融緩和も、かつてのようなパワーを失っているともいえる。

日銀の国債保有残高

郊外や駅から遠いエリアではこれからが不動産の「売り時」に?

これらの条件を踏まえると、不動産価格が回復したとしても大幅な上昇とはならない可能性が高い。つまり相場が横ばいで推移するということだ。そうなると早めに売っても少し待ってから売っても、売却価格はさほど変わらないだろう。

ひとつ注意したいのは、エリアによる価格動向の違いだ。コロナ前までは都心や駅に近いほど資産価値が高いとされ、価格の上昇度合いも大きくなっていた。だがリモートワークが定着し、不動産価格の形成要因に占める通勤利便性の比重が下がるにつれて、郊外や駅から離れたエリアの不動産価格が相対的に上昇すると考えられる。

したがって郊外・駅から離れたエリアではこれからがまさに不動産の売り時になるといえそうだ。特に複数の鉄道路線が交わるターミナル駅の周辺などは、コロナ感染終息後の相場上昇が期待できるだろう。

とはいえ今後しばらくは、コロナ禍の広がりによって一時的に不動産価格が下落することもあり得る。その際に慌てて不動産を売却しようとすると足元を見られ、必要以上の値下げを余儀なくされないともかぎらない。決して売り急ぐ必要はないが、納得のいく価格で売却できるのであれば、先延ばしせずに決断してもいいだろう。

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