元家事調停官が教える「泥沼」不動産相続争いの解決・予防の手引き

「不動産は分割しにくいからこそ、紛争の原因になる」と語るのは、これまで250件以上の相続事件を解決してきた元家事調停官。トラブル事例から相続紛争を未然に防止するためには何が必要かを解説します。

不動産は分割しにくいからこそ、争族の原因になる!

私は、これまでに250件以上の相続事件に携わり問題解決をしてきましたが、それらのうちの紛争案件については、「生前の対策をきちんとしていれば、このような泥沼の紛争にはならなかったのに」と感じるものばかりでした。

預貯金等の流動資産は分割が容易ですが、不動産は分割が難しいので、その評価額や分割方法をめぐって争いが激しくなりがちです。そのため、信頼できる不動産会社の存在は重要になります。

このところ家庭裁判所に申し立てられる相続関係の紛争は右肩上がりで増加傾向にあり、5000万円以下の比較的少額の遺産で争っているケースが75%も占めています(最高裁判所「平成29年度司法統計年報<家事事件編>」)。実際に、私がこれまでに担当した案件の依頼者も、ごくごく一般的なご家庭の方々ばかりです。

このように相続トラブルは誰にでも起こり得る問題であり、だからこそ、残されたご家族の不幸なトラブルを防ぐための対策は誰もがお元気なうちに考えておくべき課題であるといえるでしょう。

では、具体的に私が関わったケースを見ていきましょう。

「実家の土地」はいつ父親から贈与された?

依頼者は40代の男性でした。亡き父と同居していた長男が父を虐待していた疑いもあり、長男に対する憎しみの感情は非常に強く、とても円満に話し合える状況ではありませんでした。しかも依頼者である次男は実家がある先祖代々の土地を大切にされていたので、遺産分割をめぐり、いわゆる骨肉の争いとなりました。兄弟で冷静に話し合える状況ではなかったので、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしました。

しかし、遺産分割調停の中で遺産の範囲に争いが発生。具体的には、長男が実家の土地は生前に父親から贈与を受けたので、遺産ではないと主張したのです。そこでやむなく調停はいったん取り下げ、遺産の範囲を確定するため「遺産確認請求訴訟」を提起しました。

この訴訟で長男は、自分が父親から土地について生前贈与を受けたという証拠を裁判所に提出する必要がありましたが、できませんでした。この訴訟は判決が出されるまで約2年と長引きましたが、次男は勝訴することができました。

こうして、再度、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしました。しかし議論は平行線のまま調停は不成立となり審判手続に移行しました。

本件の争点は遺産である先祖代々の土地の分割方法で、具体的には、次男は公平の観点から道路に面して左右(東西)に分けるべきと主張する一方、長男は、間口が狭くなってしまうので、手前と奥(南北)に分けるべきと主張し、議論は平行線のまま膠着状態となってしまいました。

私は、最終的に裁判官が遺産分割について審判を出す場合の見通しについて考えました。

遺産の分割方法には、(1)現物をそのまま分割する「現物分割」、(2)相続人のうちの誰かが遺産を取得する代わりに他の相続人に金銭を支払う「代償分割」、(3)遺産を売却して得たお金を分配する「換価分割」、そして、(4)相続人が共有取得する「共有分割」の4種類があり、裁判官が審判を出す場合、法律ではこの(1)~(4)の順番で検討します。

本件の場合、双方が土地の分割方法((1)現物分割)に合意できないときは、裁判官は次に、(2)「代償分割」を検討します。代償分割は「代償金」が支払える資金がないと審判を出すことができないので、このままでは、(3)換価分割の審判が出されることが予想されました。要するに、「土地を売却して、売却代金を分配せよ」という審判が出されます。

このままでは先祖代々の大事な土地を失いかねません。最終的に次男は、長男が希望する分割方法で譲歩することに同意したため、審判が出されることなく調停成立で事件終了となりました。
ちなみに、この事件は、依頼を受けてから最終的に解決するまでに約5年を要しました。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

安易に不動産を「共有」にすると必ずモメる!

遺産の中には大抵不動産が含まれているので、その不動産をどのように分割するかで争いになることが多く、また、最終的に不動産を売却する場合には、懇意にしている不動産会社に売却手続を依頼することになるので、相続案件を専門的に扱う弁護士にとって、不動産会社との連携は非常に重要になります。

遺産分割の方法には、(1)「現物分割」、(2)「代償分割」、(3)「換価分割」、(4)「共有分割」の4つの方法があると述べました。
「代償分割」は、不動産の評価額をどうするかによって代償金の金額が変わってくるため、不動産の評価額をどうするかが争点になります。
「換価分割」は、不動産を売却して、売却代金から諸経費を控除した残金を相続分に従って分配します。この場合には、不動産の売却を仲介する不動産会社をどうするかなどが争点になることもあります。
「共有分割」は相続人が共有取得とする方法をいいますが、この共有分割は、単なる問題の先送りにすぎず、根本的な紛争の解決にはなりません。その相続不動産を売却するには共有者全員の同意が必要です。共有者のうちの一人が売却したいと思っても、他の全ての共有者が同意しない限り、自由に売却することができません。

「争族」を防ぐには、ご自身の生前の対策しかありえません。そしてその最も簡単な方法は、遺言書です。遺言書は一度作成したらそれで終わりというわけではなく、何度でも書き換えができます。まずは遺言書の作成から始めてみてはいかがでしょうか。

不動産を売る
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