マンション価格は下がるのか? 売り手と在庫から読む市場の変化
中古マンション市場を見るとき、最も注目されるのは価格です。「まだ上がっている」「そろそろ下がる」といった議論も、成約価格の動きをもとに語られることが少なくありません。しかし、市場の変化は価格に最初に表れるとは限りません。価格が変化する前に、売り手の価格設定や在庫、取引件数などに変化が現れることがあります。
今回は、東京の中古マンション市場について、新規売出価格と成約価格の関係、その後の在庫と価格の動きを調べました。さらに、築後間もなく売却されたマンションの動きから、足元で売り手の行動に変化が生じているのかを考えてみます。

売り手の強気度合いを表す「ワニの口」
中古マンション市場では最近、「ワニの口」という言葉を目にするようになりました。売り手の希望する売出価格と実際の成約価格との差が広がり、グラフにするとワニが口を開いたように見えることから、こう呼ばれています。そこで、東日本不動産流通機構が公表する2008年1月から2026年8月までの都心3区(千代田区、中央区、港区)のデータを使い、新規売出単価と成約単価の「上昇率の差」に注目しました。売出価格が成約価格より速いペースで上昇していれば、売り手が将来の値上がりを織り込んで、より強気の価格を付けていると考えることができます。
都心3区では、この「ワニの口」が開いた後、時間を置いて在庫が増える関係が以前より鮮明になっていることがわかりました。特に2022年以降では、1年程度たった後から両者の相関が強まりました。売り手が強気の価格を付けても、その価格に買い手がついてこなければ物件は市場に残ります。その結果、成約件数に対して在庫が増えていくと考えれば、理解しやすいでしょう。
(東日本不動産流通機構が公表する都心3区(千代田区、中央区、港区)のデータより筆者作成)
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
在庫が増えた後に価格上昇率が鈍る
さらに、在庫の変化とその後の成約価格についても調べてみました。すると、成約1件当たりの在庫が前年より増えた局面では、その後の成約単価の上昇率との間に負の相関がみられました。この関係は最近だけではなく、2009年以降の長期でも確認できます。
ここから見えてくるのは、市場調整の一つの姿です。まず売り手が強気の価格を付け、実際の成約相場との乖離が広がる。それでも買い手が追随しなければ売れにくくなり、在庫が増える。そして、その後に価格上昇率が鈍っていく。
もちろん相関関係ですから、必ずこの順番で価格が動くと断定することはできません。それでも、成約価格だけを見るよりも、売り手の価格設定や在庫を併せて見ることで、市場の変化を早い段階で捉えられる可能性があります。
築浅中古は市場の変化を先取りする?
足元の売り手の行動を考えるために、もう一つ注目したのが築後間もない中古マンションです。国土交通省の調査では、新築時の保存登記から1年以内に移転登記されたものを「短期売買」と定義しており、2024年には東京23区で9.7%、都心6区では12.1%を占めました。そこで東日本不動産流通機構の成約データから、都心3区で築後1年以内に中古マンションとして成約した物件を調べてみました。
築1年以内の成約が全成約件数に占める割合は、2022年の0.9%から、2023年3.6%、2024年6.9%へ上昇しました。ところが2025年には1.6%へ急減し、2026年1~8月には再び4.1%まで回復しています。筆者は、この築浅中古の動きが市場変化を考える一つの手掛かりになるのではないかと考えています。
長く住んだ自宅を生活上の理由から売却する場合に比べ、購入後間もなく売却する所有者の中には、購入価格と現在の市場価格との差を意識して売却時期を判断する人が相対的に多いでしょう。特に値上がりを期待して購入した場合、「まだ持つか」「今売るか」という判断は市場動向に敏感になるはずです。そうであれば、築浅中古の取引には、市場全体に先んじて売り手の行動変化が現れる可能性があります。現時点では仮説にすぎませんが、今後注目してみたい指標です。
「いくらで売りたいか」から「いくらなら売れるか」へ
実際、足元では売出価格にも変化の兆しがあります。都心3区で新規売出単価が成約単価を上回る割合は、2023年平均の14.5%から、2024年22.8%、2025年32.7%へ拡大しました。ところが2026年7月と8月には、成約単価が前年同月比でそれぞれ0.9%、4.1%上昇する一方、新規売出単価は3.0%、1.3%下落しました。まだ2カ月だけの動きですから、これを転換点と判断するのは早計です。しかし、一部の売り手が「いくらで売りたいか」よりも、「いくらなら今の市場で売れるのか」を意識し始めた可能性はあります。
同時に築浅中古の成約も回復しています。しかも、築1年以内の成約があったマンションは2025年の15棟から、2026年は8月までですでに28棟へ増えました。
取得価格が分からないため断定はできませんが、市場に敏感な売り手の一部が、さらなる値上がりを待つよりも、相場が高いうちに利益を確定する方向へ動き始めた可能性も考えられます。
価格の「上がる、下がる」だけでは見えない
住宅ローン金利の上昇を受け、「マンション価格も下がるのではないか」という見方があります。今回の分析は、金利とマンション価格の関係を調べたものではありません。ただ、今後の市場を考える際にも、価格だけではなく、その前段階で起きている変化を見ることは重要でしょう。
金利が上昇すれば、同じ返済額で購入できる住宅価格は低くなります。一方で、現在の価格と金利でも購入できる人が一定数存在する限り、すべてのマンションが一斉に値下がりするとは限りません。むしろ、買い手が物件をより厳しく選ぶようになる可能性があります。以前の本コラム「平均価格では見えないマンション市場の変化」では、平均価格が上昇する一方、市場から相対的に低く評価される物件へのディスカウントが拡大していることを紹介しました。都心3区ではその傾向が特に強く表れています。
今後も、選ばれる物件は価格を維持し、場合によっては値上がりする一方、選ばれにくい物件では売却までの期間が長くなり、価格調整を迫られるケースが増えるかもしれません。その結果として、市場全体では価格上昇率が鈍化し、横ばいに近づくという展開も考えられます。
マンション市場を見る際、「価格は上がるのか、下がるのか」だけではなく、売り手はどのような価格を付けているのか、在庫はどう動いているのか、そして市場に敏感な売り手はどう行動し始めているのか。価格に表れる前のこうした変化を見ることが、これからの市場を考える重要な手掛かりになりそうです。
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