平均価格では見えないマンション市場の変化
「都心マンションの価格上昇が鈍化している」という報道を目にするようになりました。実際の市場では何が起きているのでしょうか。今回は中古マンションの成約データを用い、都心3区(千代田区・中央区・港区)、外周区(足立区、葛飾区、江戸川区、大田区、世田谷区、杉並区、板橋区、練馬区、北区)、そして神奈川県・千葉県・埼玉県の東京駅から40km圏内を対象に分析しました。

価格上昇は一服したのか?
まず、築年数や専有面積、最寄り駅までの徒歩分数、東京駅からの直線距離、東京駅から見た方位といった価格を決める要素と思われる各物件の特性を調整したうえで、以下のような価格指数グラフを作成しました。なお、価格指数は12か月平均となっています。
| エリア分類 | 対象エリア |
|---|---|
| 都心3区 | 千代田区、中央区、港区 |
| 外周区 | 足立区、葛飾区、江戸川区、大田区、世田谷区、杉並区、板橋区、練馬区、北区 |
| 外周県 | 神奈川県、千葉県、埼玉県 ※東京駅から40km圏内 |
(東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約データより筆者作成)
実は、12か月平均をとる前は都心3区、外周区とも直近では前月比で下落しています。しかしながら前年同月比では依然として上昇しており、グラフで示しているように12か月平均で見ると価格は上昇を続けています。ただし、上昇率には違いがあります。都心3区では2025年後半以降、価格指数の伸びが徐々に鈍化しています。一方、外周区と外周県では比較的安定した上昇が続いています。価格上昇は終わったというより、都心中心部から徐々に落ち着きを見せ始めたと捉えるべきかもしれません。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
平均価格では見えない「価格プレミアム」
しかし、価格指数が示すのは平均的なマンションの価格です。同じエリアでも、市場から高く評価されるマンションもあれば、期待ほど価格が伸びないマンションもあります。平均だけでは市場の変化を十分に捉えることはできません。
そこで今回は、価格指数を作成したときと同様の各物件の特性を説明変数として回帰分析を行い、標準的な価格を推定し、実際の成約価格がその標準価格に対してどの程度高く、あるいは低く評価されたかを「価格プレミアム」として分析しました。価格プレミアムとは、市場が物件に与えた追加的な評価です。つまり、築年数や広さ、駅距離などが同程度であっても、それ以外の要因によって市場が上乗せ(あるいは割り引き)して評価した部分です。眺望や管理状態、ブランド力、再開発効果など、今回のモデルでは説明していない要素も、このプレミアムに反映されています。
高く評価される物件と評価されにくい物件
まず、市場から高く評価された物件の動きを見てみます。価格プレミアムは2022年12月時点でエリアによって違いはあるものの、上位5%の物件は中央値の物件より約1.3倍~1.6倍、下位5%の物件は約0.6倍~0.7倍程度の評価となっていました。これが時間の経過に伴ってどの程度変化したかを見るために、2022年12月を100として指数化します。価格プレミアムの上位5%について指数化すると、都心3区では2025年半ばまで約109まで上昇しましたが、その後はほぼ横ばいとなりました。一方、外周区は約106、外周県は約107まで緩やかな上昇が続いています。都心3区と外周区では高く評価される物件へのプレミアム拡大が一巡しつつありますが、外周県は依然としてプレミアムの拡大が進んでいます。
(東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約データより筆者作成)
一方、価格プレミアムの下位5%は、全く異なる動きを示しました。これも2022年12月を100として指数化すると、都心3区は約90、外周区は約93、外周県は約92まで低下しています。つまり、市場から相対的に低く評価される物件は、地域を問わず以前よりさらに厳しい評価を受けるようになっているのです。
(東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約データより筆者作成)
都心3区では、高く評価される物件へのプレミアムはすでに頭打ちとなりつつありますが、市場から相対的に低く評価される物件へのディスカウントはなお拡大しています。外周区や外周県でも程度の差はあるものの、同様の傾向が確認できました。特に都心3区ではその傾向が最も強く現れました。価格上昇率が鈍化するなかで、市場参加者が物件をより厳しく選別するようになっている可能性があります。
「平均」ではなく「選別」の時代へ
平均価格は依然として上昇しています。しかし、その平均価格の裏側では、市場参加者は物件ごとの差を以前にも増して厳しく評価するようになっています。価格が上昇する局面でも、すべての物件が同じように評価されるわけではありません。むしろ、高く評価される物件と、そうでない物件との差は広がっています。
マンション市場を語る際、「首都圏のマンション価格は上がるのか、下がるのか」という議論がよく行われます。しかし、今回の分析から見えてきたのは、それだけでは市場を語れなくなっているという事実です。今後は平均価格だけで市場を判断するのではなく、「どのような物件が選ばれ、どのような物件が選ばれなくなっているのか」という視点が、これまで以上に重要になるでしょう。同じ首都圏のマンションであっても、すべてが同じように値上がりする時代ではなくなりつつあるようです。
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