23区中古マンション市場で進む「立地評価」の変化
東京23区の中古マンション価格は、この数年にわたり力強い上昇を続けてきました。しかし、足元ではその様相に変化が見え始めています。2026年7月のコラムでは、「都心3区では2025年後半以降、価格指数の伸びが徐々に鈍化している一方、外周区や外周県では比較的安定した上昇が続いている」とお伝えしました。その時点では「価格上昇が終わった」というよりも、「都心部から徐々に落ち着きを見せ始めた」と考えるのが適切だと述べました。

価格上昇局面の変化
成約事例を用いて改めて分析すると、都心3区では価格はほぼ横ばいとなり、その他の23区でも上昇ペースは明らかに鈍化しています。市場全体として、上昇局面は転換点を迎えつつあると考えられます。背景には、賃料の上昇が落ち着いてきたことに加え、価格高騰によって購入者の負担感が増し、家計制約が徐々に効き始めていることが伺えます。しかし、市場全体が落ち着きを見せ始めた一方で、前回取り上げた「物件による価格差」はむしろ拡大し、市場全体の価格動向とは異なる変化も起きています。
| エリア分類 | 対象の東京23区 |
|---|---|
| 3区 | 千代田区、中央区、港区 |
| 城東 | 台東区、江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区、足立区、荒川区 |
| 城南 | 目黒区、品川区、世田谷区、大田区 |
| 城西 | 渋谷区、新宿区、中野区、杉並区 |
| 城北 | 文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区 |
東日本不動産流通機構に登録された成約データより筆者作成
東日本不動産流通機構が公表している「市況データ」(中古マンション)より筆者作成
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強まる駅近・中心部志向
この価格格差は何によって生まれているのでしょうか。市場を見ていると、「立地によって価格の上がり方が違う」という印象を受けます。そこで今回は、一例として、最寄り駅からの距離や東京駅からの距離、さらに場所そのものが価格形成にどのような影響を与えているのかを調べてみました。
分析の結果、駅からの距離や都心からの距離に対する価格の反応は、この数年間で強まっていることが分かりました。例えば、2020年頃には、最寄り駅から徒歩1分遠くなるごとに成約単価は約2%低下していましたが、2026年には約2.5%低下するようになっています。また、東京駅から1km離れることによる価格低下も約5%から約7%へと拡大しました。つまり、以前よりも「駅に近いこと」「都心に近いこと」が価格に強く反映される市場へと変化しているのです。
立地特性では説明できない「場所」の価値を探る
価格を左右するのは駅距離や都心距離だけではありません。同じ駅徒歩5分、同じ築年数であっても、場所が違えば価格は異なります。そこで、駅に近い、都心に近いという立地特性だけでは説明できない「場所そのもの」の価値がどのように変化しているのかを分析しました。
まず、築年数、専有面積、最寄り駅からの距離、東京駅からの距離、東京駅からの方位など、物件価格を左右する基本的な物件の特徴から「その特徴をもつ物件であれば妥当と考えられる価格」を統計的に推定します。そして、実際の成約価格との「差」を求めます。この「差」には、「人気エリアであるため市場から高く評価されている」といった立地固有の要素が含まれている可能性があります。もちろん、ブランドマンションであることや眺望、管理状態など個別物件の特徴も含まれるでしょう。
そこで、それら個別要因の影響をできるだけ小さくするために、「近くにある物件ほど似た価格になりやすい」という地理学の第一法則(Tobler, 1970)を利用します。具体的には、成約事例同士の距離と「差」の相関構造を分析することで、周辺地域全体に共通する評価、すなわち「場所そのものに対する市場の評価」を抽出しています。
人気エリアとそれ以外の差は広がっている
2020年と2026年の結果を地図で比較すると、その違いは一目瞭然です。2026年の方が色の濃淡がはっきりしており、高く評価される地域とそうでない地域との差が2020年よりも大きくなっています。
東日本不動産流通機構に登録された成約データより筆者作成。
この数年間、東京23区の中古マンション価格は平均的には上昇してきましたが、その内訳を見ると、すべての地域が同じように値上がりしたわけではなく、人気エリアが平均以上に評価を高める一方、それ以外の地域との差は以前より拡大しています。つまり、「どこにあるマンションなのか」という場所に対する市場の評価が、以前にも増して価格に反映されるようになってきたのです。
市場の内部構造変化も注視
今後、この立地格差がさらに拡大するのであれば、東京23区全体の平均価格が横ばいであっても、人気エリアでは価格上昇が続き、一方で人気の低いエリアでは価格が下落するという、市場の二極化が進む可能性があります。逆に、現在の格差水準で均衡するのであれば、各エリアの価格は市場全体の動きとおおむね歩調を合わせて推移するでしょう。
中古マンション市場を読むうえでは、「東京23区の平均価格が上がったか下がったか」だけでは十分ではありません。これからは、平均価格の動きだけでなく、市場で何が評価されるようになっているのか、その価格形成の仕組みの変化にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
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