価格指数上昇率の鈍化は価格下落をもたらす
2025年1月、地域によってはマンション価格の上昇率に頭打ち感、横ばい化が見られるという話をしました。今回は、こうしたトレンド変化が所有しているマンション価格を押し下げる仕組みについて簡単に説明するとともに、購入を検討する場合の注意点について考えたいと思います。
経年による建物価値減少が加味されていないマンション価格指数
筆者は2025年1月の記事で首都圏のマンション価格指数(都心3区、都心3区を除く20区、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県)をグラフで示しました。この価格指数は国土交通省が発表しているマンション価格指数と同様の方法で筆者が地域を分けて作成しているものです。グラフについては、2025年1月の記事を参照されたい。
価格指数は成約データから作成しますが、成約データは築年数や所在階、最寄り駅からの距離、専有面積など、一つひとつの成約データごとに物件ごとの特徴が異なっているため、その特徴を調整して価格指数を作ります。例えば、甲町X丁目Y番Z号にある所在階3階、築5年、専有面積70m²の中古マンションの価値が2015年1月に100だったとした場合、2020年1月に同じ物件(ただし築年数が同じく5年と想定した物件)の価値がどの程度かを測っているというイメージなのです。
ここで重要なことは、築年数の経過を反映していないということです。価格指数は中古マンション市場全体の価格推移を知るためのものなので、築年数の経過を考えず(さらに言えば、最寄り駅などからの距離などの違いも反映せず)、それぞれの物件がもつ特徴を全て取り除いた平均的な市場価格そのものの推移を計算しているということになるのです。つまり、価格指数は市場全体の動向を知るための指標ということです。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
経年による建物価値の減少を加味するとどうなるか?
これまでは、市場全体の動向を表すマンション価格指数は常に上がり続けていました。しかし、ここ数年、特に2023年以降はその伸び率が低下しています。上記記事のグラフデータを用いて、2018年前期から2023年後期、2023年後期から2024年後期の価格指数推移を表にまとめてみました。
価格指数の6か月平均変化率 | ||
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2018年前期~2023年後期 | 2023年後期~2024年後期 | |
都心3区 | 5.2% | 5.5% |
都心20区 | 4.2% | 2.5% |
徒歩7分以内 | 4.2% | 2.9% |
徒歩13分以上 | 3.8% | 1.6% |
都下 | 3.7% | 0.8% |
神奈川県 | 3.9% | 0.8% |
埼玉県 | 4.2% | 1.4% |
千葉県 | 4.7% | 0.7% |
都心3区は2018年前期から2023年後期までは年率5.2%の上昇率でした。23年後期から24年後期は年率5.5%とさらに勢いを増しています。他の地域は勢いを増すことはなく鈍化あるいは下落していることが分かると思います。
ここでマンションの建物が経年によってどの程度下がるのかを調べてみましょう。2006年から2024年までに成約した一都3県のデータ(約33万5千件)を用いて、築10年までと築10年超のそれぞれで、築年数差1年で価格にどの程度の差が出ているか調べてみました(ここでも、最寄り駅からの距離や所在階などのそれぞれの特徴は調整し、純粋に築年数差1年での相対的な価格差を算出しています)。すると築10年までは年率マイナス2.8%、築10年以降はマイナス2.1%という結果になりました。
もうお気づきだと思いますが、買った時よりも高く売れたというのは、建物の経年による下落率よりも、市場全体の価格上昇率のほうが高かったことが理由なのです。 都心20区(最寄り駅から13分以上)、東京都下、神奈川県、埼玉県、千葉県については、23年後期から24年後期までの市場価格の上昇率はいずれも2%未満となっていますから、実際に売れるであろう価格は23年後期より24年後期のほうが低くなるということなのです。
金利上昇で価格下落に追い打ちか
先月、日銀は政策金利を0.5%に上げました。年内に0.25%、来年にはさらに0.25%上がって1%に到達するとの予想をする方が多いようです。金利上昇によって、利払いが多くなる分、借りられる金額が少なくなります。資産家層が買い手として市場に流入している都心3区とは異なり、実需中心となる都心周辺部や郊外の住宅価格には、こうした金利上昇は少なからず影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。都心3区や都心20区の好立地以外は、価格上昇率が鈍化、横ばい化する可能性が高く、結果、経年によって価格は下がっていく現象がこれから顕在化するのではないでしょうか。
2012年頃までは、マンションは買ったら価格が下がるのが当然と言われていましたが、そういう時代に再び戻ることになりそうです。このとき注意したいのは、購入時の自己資金です。2013年以降、買った時よりも高く売れるという状況が続いていましたから、買い換えなどで住まいを売ったとしても、残債務を支払っても「お釣りがくる」という状況が一般的だったと思います。しかし、年々値下がりするようになると、さほど余剰が出ない、最悪の場合、売っても残債務が返済しきれないというケースが出てきます(かつて1991年~2012年頃はそういう事案が多々ありました)。これを回避するためには、自己資金は多めにしたほうがよいでしょう。少なくとも購入のための諸経費、できればこれに5%から10%程度は用意したいところです。
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