一都三県 一戸建て住宅の価格推移と市場の傾向変化
コロナ禍前後で一戸建てに対する好みの傾向が変化したのではないかと言われています。具体的には、コロナ禍を経て、リモートでの業務が世間に進展し、駅から遠くても、環境のよい場所で暮らしたいといった傾向が強まったという意見です。コロナ禍後、一都三県の一戸建て住宅価格も上昇しています。価格上昇を見せている状況においても、駅から遠くてもかまわないといった傾向が現在も続いているのでしょうか?今回は、一都三県における一戸建て住宅の成約データを用いて、一戸建て住宅に対する傾向がどのように変化しているか調べてみました。
一戸建て住宅価格の上昇
今回は、2019年1月から2024年3月までの一都三県の一戸建て成約事例を用いて分析を行いました。なお、今回使用したデータは、築年数を24年以内としています。これは、既存の建物をそのまま使用する前提で購入したと考えられる一戸建て住宅に限定して分析をするためです。24年前に施行された木造住宅における最新の耐震基準を満たしている一戸建て住宅であれば、解体せずにリフォーム等を施すことで使用されるとの想定に基づいています。また、一般的な一戸建てを分析対象とするため、建物延床面積は50m²から200m²としました。さらに、土地が接する道路幅員を15m以内とし、一般的と思われる住宅エリアの一戸建て住宅を対象としました。一都三県といってもかなり広範なエリアとなるため、東京駅から半径50km圏内に絞っています(総データ数は41,262件)。
このデータを使用して、まずは価格推移について確認してみましょう。価格推移はこのデータについて品質調整をした上で価格指数を作成するという方法を採用しています。各物件の品質がこれを構成する様々な特性(最寄り駅からの徒歩分数、バス便か否か、建物築年数、成約年月など)に分解でき、価格はこれらの性能によって決定されると考え、これらの特性と各物件の価格との関係を、重回帰分析という統計的手法で解析することにより、物件間の価格差のうち品質に起因する部分を計量的に把握しようとする手法です。価格指数は特に成約年月に注目して指数を作成していくことになります。
※重回帰分析:複数の変数(目的変数)を用いて、ある結果(説明変数)を表す式を算出する統計的手法。
次のグラフは、2019年前期(1月~6月)から2024年前期(1月~3月)の一戸建て住宅価格指数の推移を半年毎に示したものです。2019年前期から2020年前期までは横ばい、2020年後期から2022年後期まで大きく上昇、その後は横ばいとなっています。2020年後期から価格が上昇した理由の一つは、この時期から1年程度の間、日本銀行がマネーストックを一気に増やしたことで、株式や不動産にお金が流れたということがその要因と考えています。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
市場の傾向変化
一戸建て住宅価格の上昇の背景には、マネーストックの上昇以外に、リモートによる業務の浸透も要因の一つではないかと考えられていました。自宅で仕事ができる環境が整えられるなら、駅から遠くても、バス便でも構わないという発想が根付いたという考え方です。また、新築でなくても中古戸建てでも自分なりにリフォームして暮らしたいという需要もこのころから強まってきたと言われています。こうした考え方からすると、駅から多少遠くても、あるいはバス便であっても、築年数が多少古くても、一戸建て住宅価格は従来より値下がりしにくくなっていると予想されます。
さて、それでは、2019年前期以降、最寄り駅からの徒歩分数、バス便か否か、築年数の違いが、戸建て価格にどのような影響を及ぼしているか、先ほどのデータを用いて分析してみましょう。まずは次のグラフを見てみましょう。このグラフは最寄り駅(バス停含む)からの徒歩分数の変化によって、一戸建て住宅の価格にどの程度影響を及ぼすかについて、時系列で表したものです。2019年前期は▲1.6%となっていますが、これは、最寄り駅からの徒歩分数が1分増えると価格が1.6%下がるということを意味しています。この値を見ると、2023年前期に▲1.1%まで上昇しましたが、現在は▲1.5%と2019年前期と概ね変わらない水準に戻しています。つまり、一時的には、最寄り駅から遠くても許容するという考え方になったものの、現在はコロナ前と変わらない傾向に戻っているということを示しています。
次はバス便の場合のグラフです。バス便の立地の場合、通期で概ね▲20%程度で推移しており、コロナ禍前後で大きな変化はありませんでした。
最後は築年数が一戸建て住宅価格にどのような影響を及ぼしてきたかを見てみましょう。
築年数は一見して分かるように、概ね右肩上がりのグラフとなっています。つまり、多少古くてもかまわないという傾向が強まっているということになります。住宅価格が上昇しているため、新築住宅を買いにくいという面もあるかもしれません。あるいは、2000年6月施行の耐震基準を満たしていれば、安心して暮らせるという認識が広まっている可能性もあります。
建物のメンテナンスが売買のポイントに
この結果から考えられることは、最寄り駅からは極力近い場所を好むという立地重視に傾向が戻っているということです。これから一戸建て住宅を買う方はやはり立地を重視したほうが、資産価値は維持しやすい可能性がありそうです。一方、建物築年数については、多少古くなっても許容されるという市場です。築年数が古くても一戸建て住宅が売れる市場が今後定着してくとすれば、立地に手を加えることはできませんので、建物という資産価値を維持する重要なポイントは建物や設備のメンテナンスということになるでしょう。同じ築年数でもメンテナンスが行き届いた物件とそうでない物件では価格に差が出る可能性があります。購入時点において、メンテナンスの状態を確認しつつ価格交渉を行うということが今後は当たり前になってくるかもしれません。例えば、築15年程度で外壁と屋根の防水工事を行っているといないとでは、建物価格に差が出てくるのは当然でしょう。売却を考えるにあたっても、メンテナンスをしていたほうが高めの価格で売れる可能性が高まってくるのではないでしょうか。
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