都区部でも格差広がる中古マンション市場

今年(2025年)の1月に筆者は寄稿した記事で、「今年は、マンションの立地特性や個別の特徴の違いによって格差がますます広がるのではないか」と予想しました。今年も間もなく折り返しを迎えようとしていますが、都区部でも立地の違いによって価格上昇率に差が生じているとの声をよく聞くようになっています。そこで、改めて首都圏の中古マンション価格動向を確認してみました。

都区部でも格差広がる中古マンション市場

東京都区部と周辺の動向を改めて確認

今回は、2018年1月から2025年5月までの一都三県の中古マンション成約事例(専有面積50m²~100m²、バス分を除く198,044件)を用いて、都心7区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、豊島区、文京区)、都心7区を除く東京都区部(都心16区)、東京都区部を除く東京都(都下)、神奈川県、埼玉県、千葉県の各地域における中古マンション価格指数の推移について見てみることにしました。価格指数は、マンションの専有面積あたりの成約単価について、最寄り駅からの距離や築年数、所在階、東京駅からの距離などの特徴を利用して品質調整しています。これを行うことによって、例えば築年数が古いものが多く取引されていたとしても、価格指数はその影響を受けない形となります。

価格指数推移(一都三県)(2018年前期=1.0)

(公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約事例を用いて筆者作成)

上図は、2018年前期(1月~6月期)から2025年1月~5月期の期間で中古マンション価格指数を時系列でグラフ化したものです。都心7区は2025年になっても価格上昇の勢いが止まっていません。2018年前期と比較すると1.98倍、半年前の2024年後期と比べても7.7%上昇しています。実需だけでなく国内外の投資マネーが流れ込んでいることがその背景であると考えられています。一方、都心16区、都下、周辺県は都心7区よりも価格上昇はゆるくなっています。このエリアは投資需要がないわけではありませんが、主な需要は一般的な実需が中心と考えられます。

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都区部でも格差が生まれつつある

上述のように、都心部と周辺エリアという立地の差で価格上昇の勢いに差が生じているなら、都区部でも立地によって格差が生じている可能性があると思われます。そこで、最寄り駅から10分以内の中古マンションと10分超と中古マンションに分けて、価格指数の推移を調べてみました。なお、都心7区、城南地区(品川区、大田区、目黒区)、城西地区(世田谷区、杉並区、中野区)、城北地区(練馬区、板橋区、北区)、城東(荒川区、足立区、江戸川区、江東区、墨田区、台東区)に分けて分析を行いました。

次のグラフは都心7区、城南地区、城西地区の中古マンション価格指数の推移を表したものです。都心7区を見ると、最寄り駅からの徒歩分数が10分以内でも10分超でも価格指数は変わらず、また、2018年以降、ほぼ同じように価格が上昇していることが分かります。つまり、都心7区では最寄り駅からの徒歩分数が価格上昇にほとんど影響を与えていないということになります。一方、城南地区と城西地区は、2024年前期までは徒歩分数による相違はほとんど見られませんでしたが、2024年後期以降はその格差を広げつつあります。

価格推移(城南・城西)(2018年前期=1.0)

(公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約事例を用いて筆者作成)

次のグラフは城北地区と城東地区のものです。城北地区は徒歩10分以内も10分超も価格上昇に差はほとんど見られませんでしたが、城東地区は格差の広がりが顕著になっていました。特に注目すべきは、城東の価格指数が今年になってほとんど上昇していないことです。もちろん、今年一杯様子を見る必要はあると思いますが、都区部でも価格が上昇しないエリアが出てきたことは現場の声の通りとなっています。

価格推移(城北・城東)(2018年前期=1.0)

(公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された中古マンション成約事例を用いて筆者作成)

都下や周辺県はより格差が生じているかもしれない

城東地区において徒歩10分以上の場所にある中古マンションの価格が横ばい化しているのは、一般的な買主が購入可能な限界に到達しつつあることも原因ではないかと筆者は考えています。

総務省統計局の家計調査報告(家計収支編 2024年)によると、可処分所得(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)は、2018年が455,125円、2024年が522,569円で約1.15倍です。一方、城東地区の中古マンション価格は2018年前期を1とすれば2025年1月~5月は1.58倍にまで上昇しています。最寄り駅から10分超のエリアならば比較的買いやすい価格帯かもしれませんが、中古マンション価格上昇を許容できない状況になってきたということなのでしょう。

都区部でもエリアによって最寄り駅からの徒歩分数の違いで価格上昇傾向に格差が生じているなら、都下や周辺県ではもっとその格差は顕著になっている可能性がありそうです。これまでのように、一律に価格が上昇していくという局面から転換期を迎えつつあるのかもしれません。

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