【2021年】過去10年間の公示地価推移から読み取る今後の住宅地価動向
2021年3月24日、国土交通省が標準地の地価を公示しました。
3大都市圏の過去10年間の対前年変動率と中心部平均㎡単価の推移をもとに、
今後の動向を不動産アナリストに予想していただきました。
※本記事に掲載している折れ線グラフは、地価公示にともなって国土交通省が公表した各都府県地価の対前年変動率をもとに編集部で作成しました。いずれも2012年の地価を100%とした場合の推移を表しています。
首都圏エリア
1都2県はコロナの影響で下落。千葉県は微増
首都圏では、リーマン・ショックによる下落傾向が2013年で止まり、2014年以降の対前年変動率は、マイナスなしで推移してきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、2021年の東京都・神奈川県・埼玉県の対前年変動率はいずれもマイナス0.6%となり、8年ぶりに下落しました。
「東京都に代表されますが、マンション開発が活発だったエリアが地価を引き上げてきました。しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響で販売休止や開発の見送りが相次いだため、マイナスに転じたわけです。なお、首都圏では千葉県の地価のみ微増しています。これは、県全体でみるとマンションより一戸建ての供給のほうが多かったためでしょう。コロナ禍でリモートワークの浸透が進み、立地より広さを重視する人が増えました。結果、千葉県の一戸建てが、こうしたニーズの受け皿になったものと考えらえます」(東京カンテイ高橋さん、以下同)
今後は都市部を中心に上昇傾向に転じる可能性も
コロナ禍は昨年から続いていますが、高橋さんは「不動産マーケットへの影響は、昨年より軽減されるのでは」と予測します。
「東京23区などの都市部では、2020年後半から休止・見送りになっていたマンションの販売や開発が再始動し、これにともなって価格の上昇傾向がうかがえるエリアも出てきています。ワクチン接種が始まって出口が見えてきたこともあり、ダメージはかなり軽減されると思われます。なお、リモートワークの浸透で職住近接ニーズが減るのではという見方がありますが、マーケット全体から見れば限定的です。今後も、都市部が地価上昇を牽引していくでしょう」
名古屋圏エリア
愛知県の上昇が止まり、岐阜県・三重県は下降傾向継続
愛知県の地価は、リーマン・ショック後、上昇を続けてきましたが、首都圏同様、2021年は下落に転じています。一方、岐阜県・三重県は、下降傾向が継続しています。
「愛知県の地価は、上昇時も下降時もトヨタ自動車の業績と連動しています。2021年に下降したのは、コロナ禍で同社が操業停止に踏み切ったことなどが影響していると考えられます。一方、岐阜県や三重県は、人口の流出が流入を上まわり続けているため、地価もこれに呼応して下降を続けています。名古屋圏には、総じて一戸建ての比率が高いという特徴があります。愛知県内にも一戸建てが多いため、住まいに広さを求める人が岐阜県や三重県に流れるという動きにつながりにくいのです。ただし、名古屋駅周辺のオフィスワーカーには、価格が割安な岐阜市や桑名市で住まいを求めるという人もいます。こうしたニーズが、両県の地価の下げ幅を抑えているという見方もできます」
トヨタ自動車の動向に加え、リニア中央新幹線の先行きにも注意
高橋さんは、愛知県の今後の地価動向は、トヨタ自動車の業績に加えてリニア中央新幹線の先行きにもかかっているといいます。
「新型コロナウイルスの感染拡大が自動車産業に与えたダメージは、飲食業や観光業に比べれば軽度で、トヨタ自動車の業績はすでに復調しつつあります。ただし、昨年にはリニア中央新幹線静岡工区が暗礁に乗り上げ、開業時期が不透明になってしまいました。これまで愛知県の地価が上昇してきた背景には、トヨタ自動車の業績が好調だったことだけでなく、リニア中央新幹線開業に向けた期待感もありました。今後、リニアの計画がどのように定まっていくのか、動向をしっかり注視する必要があるでしょう」
関西圏エリア
大阪府・京都府で持ち直しつつあった地価が再び下降
首都圏や愛知県に比べて、関西圏の地価はリーマン・ショックによる下落の下げ止まり時期が遅く、その後の上昇度合いは鈍い傾向にありました。一方、兵庫県はずっと下降傾向が続いています。
「大阪府や京都府は、外国人観光客の増加や再開発などで経済の活性化が続いたため、毎年微増ながら地価も上昇していました。リーマン・ショック前の水準に持ち直しつつあるなかでコロナ禍に見舞われ、両府を訪れる外国人が激減しました。経済活動の低迷により、地価も再び下降に転じてしまったのです。一方、兵庫県の地価は、阪神間では堅調ですが、神戸より西のエリアで人口減少が続いているため、県全体で見ると下降傾向が継続しています。また、神戸市は、市の中心部や三宮エリアにおけるタワーマンション建設を規制しています。これには、事業集積地として利用価値が高いエリアの求心力低下に歯止めをかけようという狙いがありますが、そもそも新たなオフィスビルや商業施設の進出が鈍っていたことが発端になっているわけですから、直近まで堅調だった大阪府や京都府に比べると、兵庫県の地価の地盤沈下は依然として緩やかに進行中と見るべきでしょう」
他の2エリアに比べ、復調に時間を要する可能性が
高橋さんの解説にあったとおり、関西圏は、他の2エリアに比べて訪日外国人が経済活動を下支えしている度合いが高いという特徴があります。
「関西圏の場合、地域経済が勢いを取り戻すには外国人観光客の増加が不可欠です。しかし、世界的にコロナ禍が収束しなければ海外からの観光客は増えませんから、首都圏や名古屋圏に比べて、経済の復調には時間がかかると思われます。これにともない、地価の下降傾向はしばらく続くのではないでしょうか。なお、2025年には大阪・関西万博の開催が予定されています。このイベントが地域経済にどれくらいの効果をもたらすかは、世界レベルで新型コロナウイルスの抑え込みがどの程度進むかによって変わるでしょう」
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