建物に不安があるなら建物状況調査の利用を!

住まいを売る、中古住宅を買うというとき、一般的には不動産会社に依頼をします。物件検索サイトで物件探しをするにしても、物件ごとに不動産会社が紐づいており、必ず窓口となる不動産会社とやりとりをしながら売買手続きへと進んでいきます。不動産会社は宅地建物取引業免許を取得していますので、当然ながら土地建物取引のプロです。しかし、不動産会社は建物の建築や、劣化状態の判断、維持修繕の専門家かと言われると、必ずしもそうではないのです。

建物に不安があるなら建物状況調査の利用を!

建築や建物劣化状況の判断や対処法には必ずしも詳しくない

不動産会社は、各事務所に宅地建物取引士という資格を持つ者を5人に1人以上設置しなければならないことになっています。宅地建物取引士の資格試験には、不動産取引に関連する民法、判例、建物を建てる場合にどのような制限がかかるのかという観点から都市計画法や建築基準法などについて学びますが、建物の構造や施工、劣化状況の判断方法や維持管理方法などについては試験範囲に含まれていません。ですから、その建物がしっかり建てられているかどうか、劣化状況に問題があるのか、あるとすればどのように対処すべきなのかについて、的確に答えられる人がたくさんいるわけではないのです。
筆者も宅地建物取引士ではありますが、建築士の資格を持っていませんので、建物や設備について専門家ではないのです。

不動産会社の建物の物理的瑕疵に関する説明責任の範囲とは

不動産会社は、宅地建物取引業の免許を取得して業を行うわけですので、相応の専門知識や能力を求められます。建物や設備などの不具合についての調査説明の責任範囲について判例(東京地判平成16年4月23日)では、通常の注意を尽くせば物件の外観(建物内部を含む)から認識することができる範囲で物件の不具合や欠陥などの有無を調査し、その情報を買主に提供する義務を負うとしています。一方で、通常の注意を尽くして外観を確認しただけではわからない建物の欠陥や不具合、地中障害物の有無などについては、調査、説明、告知すべきものと解するのは相当ではないとした判例(東京地判平成19年3月26日)もあります。
つまり、通常の注意を尽くしても「外観から認識できない範囲」について、不動産会社は調査・説明義務を負わないと考えられているのです。
このような、中古建物の劣化状況、例えば、壁の裏側にある柱の腐食やシロアリの害、見た目ではわからない雨漏りや不同沈下(建物が不揃いに沈むこと)などについて不安であるならば、専門の会社に聞いたほうが安心できる場合もあるのです。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

不動産会社による仲介業務とは

では、不動産会社の仲介業務とは具体的に何なのでしょうか?
仲介業務は、買主探しや物件探しのほかに、宅地建物取引業法等で定められた調査事項に加え、前述の調査を行い、これを不動産売買契約前に買主に説明する業務(重要事項説明の実施と説明書の発行業務)と、宅地建物取引業法第37条の書面交付などがあります。37条の書面とは不動産売買契約書の作成がこれを兼ねており、ここでは売買に関する諸条件が記されます。例えば、売買代金の支払いや解約に関するルール、建物などの不具合などについて、売主と買主がそれぞれどのような場合に責任を負うかなどのルールが盛り込まれており、不動産会社はこうした売買契約における決まり事を書面化する業務も担っています。
つまり、今回のテーマで言えば、不具合や欠陥を見つけることよりも、見つかった場合の紛争を避けるためのルール作りが専門になっているということなのです。

不安ならインスペクションを活用

建物に不具合などがないかという不安を払拭するために、平成30年4月1日施行の宅地建物取引業法の一部改正によって、不動産会社は、売主や買主に対してインスペクション(建物状況調査)をしたいかどうかについて、実質的に確認しなければならないことになりました。具体的には、不動産会社に買主探しや物件探しを依頼するときに(媒介契約を不動産会社と締結するときに)、不動産会社はインスペクションについて説明し、インスペクション業者をあっせんできるか否かを依頼者に示さなければならず、あっせんできるならば依頼者からの要望によりインスペクション業者を手配するという仕組みです(詳しくは、こちらの記事もご参照ください)。インスペクション費用は様々ですが、一戸建てならば5万円から10万円程度です。

買主が不動産会社と締結する媒介契約は、売買契約と同日に締結するということが実務上多いのですが、建物に不安があるならば、不動産会社を通じて売主に対してインスペクションの実施をお願いするのもよいでしょう。売主にとっても、後で問題が明るみになるより、事前にはっきりさせたうえで取引したほうがよい場合もあります。特に、築年数が20年以上経過している建物で暮らすことが前提となる取引ならば、インスペクションを実施したうえで取引したほうが売主買主ともに安心な取引となるのではないかと筆者は思います。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

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