必ずしも高気密高断熱とは言えない省エネ基準

昨年10月、菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、行政や自治体、企業などで脱炭素に向けた動きが活発化しています。こうした中、建築物省エネ法が改正され、本年4月から注文住宅を建築する場合には、設計士が施主に対して計画する建物が省エネ基準に適合しているか否か、適合しない場合には省エネ性能確保のための措置について説明する義務が課されることになりました。しかし、日本の省エネ基準は必ずしも高性能とは言えないという意見もあるようです。

必ずしも高気密高断熱とは言えない省エネ基準

十分とは言えない日本の省エネ基準

日本の省エネ基準とは、建築物省エネ法の平成28年省エネ基準(エネルギー消費性能基準)の断熱基準です。この基準は、省エネ法の平成11年省エネ基準及び平成25年省エネ基準(建築主等の判断基準)の断熱基準と同等の断熱性能です。つまり現在の省エネ基準は20年以上前の1999年(平成11年)に作られた基準がそのまま現在の基準になっているということになります。
ここで問題となるのはこの基準の実力です。鳥取県では戸建住宅を新築する際の県独自の省エネ住宅基準を策定していますが、同県がホームページに掲載している表を見ると、国の省エネ基準と海外の基準のレベル感の違いが分かります。

鳥取県「とっとり健康省エネ住宅」ウェブサイトより抜粋

鳥取県「とっとり健康省エネ住宅」ウェブサイトより抜粋

この表の一番左側にあるのが「国の省エネ基準」です。右に行けば行くほど性能が高まります。最下段の「世界の省エネ基準との比較」を見ると、国際的にかなり低レベルであることがよくわかります。

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国際的な最低基準より大幅に低い

数値で見ると、断熱性能UA値と気密性能C値が小さいほど高断熱高気密ということになります。UA値というのは建物内の熱が逃げる割合を示す指標で数値が小さいほうが断熱性能は高いということになります。欧米では0.4前後、日本の省エネ基準は0.87となっており、国際的に見ると低水準であることが明らかです。
また、C値は気密性の指標で、数値が小さいほうが隙間風は少ないことを意味します。表には記載はありませんが、日本の省エネ基準だと5.0だそうですから、1.0と比べると隙間風だらけといっても過言ではないそうです。
重要なのは、日本は努力義務ですが、欧米ではこの数値性能を守ることが義務化されているということです。つまり、UA値が0.4前後の住宅に住むことが最低限の生活するために必要であると考え、それが法的に担保されているわけです。
鳥取県でもUA値0.48以上の水準以上であれば助成することとしていますが、これはカーボンニュートラルの観点だけでなく、ヒートショックによる死亡を防ぎ健康に暮らすことを推奨しているもので、欧米の水準に少々劣るものの、これが本来あるべき最低限のレベルであるという考えの表れだと考えています。

結果的に最高基準となる省エネ基準

国土交通省によると、国内には、住宅の断熱性能の強化が必要な住宅が多数存在するとしています。以下のグラフにあるように、現行の省エネ基準に適合する住宅ストックは全体の約10%となっています。
ところで、現行の省エネ基準は1999年に作られた基準であるにも関わらず、何故、省エネ基準を満たす住宅の割合がこれほどまでに少ないのでしょうか。現行基準は2020年以降に義務化するという動きがあったものの見送られてしまい、努力基準として残っている基準なのです。2019年は消費増税で景気が悪くなるのではないかと危惧されていたこと、当時は国内の工務店が断熱化された住宅を建築できる技術がまだないという意見が多かったこと、住宅建築のコストアップが需要を減らしてしまうのではないかといった見解などが、義務化見送りの背景と言われています。

国土交通省「我が国の住宅ストックをめぐる状況について」より抜粋

国土交通省「我が国の住宅ストックをめぐる状況について」より抜粋

今回、建築物省エネ法が改正され、注文住宅を建築する場合は、建築士が施主に対して省エネ基準に適合しているか否かの説明義務が課されましたが、国際的にみて低い基準でも増やしていかないことには始まらないという考えが背景にあるのでしょう。問題は、現在の省エネ基準は国際的には低い水準ではあるものの、国内だけで見れば最高品質になってしまうため「高断熱高気密住宅」と銘打って販売されているというのが実情なのです。

計算できる工務店や設計士に依頼

カーボンニュートラルを目指す流れが強くなる中、国土交通省は2025年度にも、新築住宅について省エネ基準の適合を義務付ける方針だという報道もなされています。国が基準を義務付けるということは、それが建築可能な最低水準になると思われます。交通事故で亡くなる方の3倍以上の方が住まいの断熱不足が主因と言われるヒートショックで亡くなっているとの報告もされていますから、高齢化がさらに進展する中で本来あるべき水準での高断熱高気密住宅の需要が従来以上に高まるでしょう。そうなると、現在「高気密高断熱住宅」として売られている住宅の省エネ水準は見劣りするものとなりかねません。
こうした中、本来あるべき「高断熱高気密住宅」を建築したい場合は、工務店や設計事務所に燃費性能を確認することが重要でしょう。車を買う時に燃費を確認するのと同様に、住まいの燃費性能をUA値とC値といった数値で説明してもらうことが重要で、この説明ができる、この基準を理解し計算できるという工務店やハウスメーカー、建築士などに相談することがよいと思います。

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