郊外一戸建てニーズの増加が住宅市場にもたらすもの

新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークを実施する企業が増えています。これまでの朝早く家を出て、夜遅くに帰宅するといった働き方が一転、自宅で過ごす時間が長くなったという方も多いのではないでしょうか。こうした中、自宅でのワークスペースを確保できる住まいが欲しい、通勤する日数が減るならば、自然豊かな郊外の一戸建てで暮らしたいというニーズが高まっていると言われています。

自宅でテレワークする夫婦

総務省の調査でも、11月の東京都の転出者数は前年同月比19.3%増で5ヶ月連続の転出超過となったとの報告がなされています。

こうした動きは、都心部など通勤に便利な場所、最寄り駅から近いことなどが重視されている中心部の中古マンションが主導してきた住宅マーケットに地殻変動をもたらすものなのでしょうか。

郊外の一戸建て取引は微増にとどまる

そこで、公益財団法人東日本不動産流通機構が公表している一都三県の中古住宅成約データから、2019年1月以降の取引件数割合をグラフ化してみました。なお、ここでは、東京都23区内を中心エリア、それ以外を郊外エリアとして考えています。

取引件数割合の変化

公益財団法人東日本不動産流通機構「市況データ」より筆者作成

20年3月までと20年4月以降の平均取引割合
  一戸建て マンション
郊外エリア 中心エリア 郊外エリア 中心エリア
20年3月まで 20.9% 4.5% 42.8% 31.9%
20年4月以降 23.8% 4.3% 41.8% 30.1%

グラフを見ると、これまで20%程度の取引割合だった中古一戸建て(郊外エリア)が昨年3月から5月に急増し、その後、20%を超える水準を維持していることがわかります。表に示したように、郊外の一戸建ての平均取引割合は、2020年3月までが20.9%、2020年4月以降は23.8%となっており、はっきりとした増加傾向が見られます。

一方、中心エリアの中古マンションの取引件数割合は、コロナ禍前の30%超という水準が概ね30%程度とシェアを落としています。2020年3月までおよび同年4月以降の平均を見ると、中心エリアのマンションは▲1.8%、郊外エリアのマンションが1.0%、中心エリアの一戸建てが▲0.2%となっていますから、中心エリアのマンション需要を中心に郊外の一戸建てにシフトしたということが分かります。

今回利用しているデータは、中古住宅のみのデータですし、一部の取引しか登録されていませんので、この結果が今の市況と完全に一致するわけではないものの、傾向としては概ね正しいのではないかと思われます。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

郊外の一戸建てニーズ上昇でも価格に変化なし

郊外エリアの中古一戸建て取引が増加し、中心エリアの中古マンション取引が減少している一方で、価格推移はどのように変化したのでしょうか。こちらも公益財団法人東日本不動産流通機構の公表データからグラフ化してみました。マンションの成約単価は専有面積1m²あたり、一戸建ては延床面積1m²あたりの単価としています。

公益財団法人東日本不動産流通機構「市況データ」より筆者作成

昨年の緊急事態宣言が解除された翌月となる6月以降で見ると、郊外エリアの一戸建ては成約単価が横ばいのまま、中心エリアの中古マンションは上昇傾向となっています。ですから、郊外の中古一戸建てに対するニーズは高まっているとはいうものの、価格トレンドを変えてしまうほどの影響があるものではないことが分かります。

なお、築年数が変化していると価格にも影響が出ますので、築年数の変化についても確認しています。郊外エリアの中古一戸建ては3月までの平均が21.9年、4月以降が22.1年、中心エリアの中古マンションが19.9年から20.5年となっていましたので、築年数の変化は平均を見る限りではほとんどなく、郊外エリアにおける中古一戸建ての平均成約単価は横ばい、中心エリアにおける中古マンションは上昇という傾向に概ね間違いはないと考えてもよいと思われます(標準偏差もともに大きな違いはみられませんでした)。

20年3月までと20年4月以降の平均築年数(年)
  一戸建て マンション
郊外エリア 中心エリア 郊外エリア 中心エリア
20年3月まで 21.9 19.7 22.9 19.9
20年4月以降 22.1 18.9 23.5 20.5

住まいに対する価値観変化は始まったばかり

このように、郊外の一戸建てニーズが高まったとはいえ、中心エリアの中古マンション人気には陰りは見られませんでした。しかし、筆者は、郊外の一戸建てニーズが高まったという動きは、最寄り駅への近接性、勤務地への近接性、築年数といった要素に力点が置かれていた住まいに対する価値観が、新たなステージにシフトし始めた兆しであると考えています。

コロナ禍に伴い、働き方、暮らし方が急激に変わるとは思えませんが、今後、数年かけて少しずつ新しい生活様式に変わっていくと思います。すべての業種でテレワークが可能ではありませんので、働き方と暮らし方のスタイルはいくつかのパターンに分化し、住まいに対する価値観もそれに合わせて変化してくことになるのではないでしょうか。

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