不動産の売却において「建物の良し悪しよりも、立地(環境)が査定額に及ぼす影響は大きい」と考えている方は少なくないでしょう。極端な話ですが、建物であれば修繕・リフォーム・リノベーションなどできる一方で、立地は改善できないためです。
しかし、実際に立地や環境がどのくらい査定額に影響してくるのか、また、そもそも「立地が良い」「環境が良い」とはどういうことなのか、詳しくはわからないという方もいるのではないでしょうか。
そこで、住宅を建築できる土地の種類と、それぞれの売却額のデータをご紹介しながら、立地や環境が不動産の査定に及ぼす影響についてご説明します。
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売却査定における「立地の良し悪し」とは何か
そもそも、「立地が良い」「立地が悪い」という条件は、どのような基準で決められるのでしょうか。
売却査定の額は、該当物件の需要によって決まるため、より多くの人が魅力を感じる立地・環境の物件に高額な査定がつく傾向があります。
具体的には、次のような6つのポイントを中心として、売却査定が行われます。
1. 用途地域
土地には、それぞれ用途地域が指定されています。東京都の統計年鑑を見てみましょう。
東京都の統計データによると、もっとも面積が多いのは「第一種低層住居専用地域」です。
第一種低層住居専用地域とは、低層住宅のための地域です。小中学校や住居兼用の小さな店舗は作ることができますが、スーパーや工場、ホテル、レジャー施設などを建てることはできません。
同様に、それぞれの用途地域には建てられる建築物が細かく定められています。そのため、物件の用途地域を見れば、自然と周辺の環境を知ることができるというわけです。
また、土地を購入後に住居以外の用途で利用したいと考えている方にとっても、用途地域指定は重要な購入の条件となります。
なお、用途地域の種類と建築可能な建物の種類については後ほど詳しく紹介します。
2. 環境(周囲の騒音や駅からの利便性)
立地の良し悪しを判断する上で、周囲の騒音や駅からの利便性が良いかどうかといった環境面も、考慮のポイントとなります。
騒音の原因となるような幹線道路に面していないかどうか、線路や踏切が近くにないか、といった点が挙げられます。
また、都市部においては駅からの距離が近いほど「立地が良い」とされる傾向があります。
駅からの距離が売却価格に与える影響については、下記の記事もご参照ください。
3. 施設
小中学校や役所・郵便局・病院・コンビニなど、普段生活していく中で必要とされる施設にはさまざまなものがあります。ファミリー世帯にとっては、学校の学区やスーパーまでの距離は重要ですし、近隣にレジャー・ショッピング・レストラン・クリニックなどを兼ね備えた大型ショッピングモールがある場合は、便利さから立地に魅力を感じる人も多くいることでしょう。
4. 自然
公園や緑地、遊歩道など、自然を感じられる環境が周辺にあるかどうかも立地の良し悪しに影響を与えます。特に、都市部において住まい周辺に公園や緑地が多いということは、日常生活にゆとりや豊かさをもたらす存在として良い評価を得られることが多いでしょう。
5. 防災
地震や水害などの自然災害が起こった場合、被害が大きくなる可能性がある土地は立地が悪いと判断される場合があります。例えば、河川の周辺や埋立地、活断層があるとされる地域は災害時の被害リスクが高いとされ、評価が低くなる傾向があります。
なお、災害の起こりやすさや災害による被害リスクについては、国土交通省の「ハザードマップ」で確認することができます。
6. 治安
犯罪発生件数の少ない安全な土地に暮らしたいと思うのは、多くの方に共通の願いでしょう。治安の良し悪しは、各都道府県の犯罪マップによって確認することができます(犯罪マップを公開していない自治体もあります)。
このように、「立地・環境」にはさまざまな要素が絡み合って査定に影響を及ぼします。次に、立地が査定額にどの程度関係してくるのか見てみましょう。
立地が売却相場に与える影響
立地の良し悪しが不動産の売却査定に与える影響は多岐にわたるため、前述した6つのポイントと価格との関連性を説明することは困難です。しかし、用途地域については比較的データとの相関関係がありますので、売却額に与える影響としてご紹介します。なお、参考データは国土交通省の「不動産取引価格情報 」データベースから、下記の条件で抽出しました。
- 対象エリア:東京都
- 不動産種類:宅地(土地)
- 売買契約後の使用目的:住宅
- 広さ:2,000平方メートル以下
- 取引時期:2012年~2017年3月
なお、上記の表におけるそれぞれの用途地域は、次のような特徴を持っています。
上記の宅地価格の取引表から、商業地域の土地は、平均取引額の199%と非常に高い金額でやりとりされていることがわかります。商業地域は、多くの商業施設の建築が可能な繁華街(=駅周辺の土地)であることが多く、それだけ利便性が高く、魅力的だと感じる人が多いということでしょう。
商業地域に次いで高額なのが、第二種住居地域です。第二種住居地域は、住居の環境を守る地域でありながら、店舗やカラオケなどの商業施設も建てることができる地域です。利便性と住環境を兼ね備えた地域として、事業用途でも住居用途でも活用できることから資産価値として高く評価されています。
一方で、あまり評価が高くないエリアとして挙げられるのが、平均取引額の64.23%という低額での取引となった工業地域です。危険性や環境が悪化するリスクのある工場を建てることができる地域ですから、住まいとするには人気が低い傾向が見て取れます。
工業地域に次いで価格が低いのは、道路に面しており、騒音や排気ガスなどの問題があると予想される準住居地域です。やはり、住環境は物件売却額に少なからず影響を及ぼしているといえるでしょう。
なお、前述したように東京都でもっとも用途地域の面積が広いという結果が出た第一種低層住居専用地域は、平均の86.04%とそれほど高い金額で取引されていません。ところが、ほぼ同条件で150平方メートルまでの店舗の建設が可能になる第二種低層住居専用地域では115.11%と平均を超える価格で取引されています。
第一種低層住居専用地域は住まい目的の土地として人気は高いのですが、事業用の需要も含まれる第二種低層住居専用地域のほうが査定金額としては高い結果となっているのです。
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まとめ
立地や環境は、物件の売却査定や実際の売却額に少なからず影響を与えます。所有している物件の用途地域や周辺環境を変更することはできませんから、立地環境に難があると思われる物件の売却を希望している方は、物件そのものの価値を高めるリフォームや、金額を高望みせず早めに売却するといった工夫をする必要があると考えられます。
一方、立地環境の良い地域の物件を所有している場合でも、周辺環境は刻々と変化していくため、売り時を誤らないように情報収集をしていくべきだといえるでしょう。
<出典>
東京都統計年鑑(平成20年)
用途地域データ|国土交通省
不動産取引価格情報|国土交通省
執筆:平野 絵美
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- 監修:
- 長嶋 修(ながしま おさむ)
- 経歴:
- 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「株式会社さくら事務所」を設立、現会長。「中立な不動産コンサルタント」としてマイホーム購入・不動産投資など不動産購入ノウハウや、業界・政策への提言を行う。著書・メディア出演多数。近著に「不動産格差」(日本経済新聞出版社)。
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