遺言書と任意後見で実家売却の準備を(筆者体験記)

実家に両親が住んでいるけれど、将来、施設に入ってもらうことになりそうだ。その際、現金が少ないので実家を売って入所のための資金にしよう。そう考えている方も少なくないと思います。筆者も同じような境遇にあり、今回、父に遺言書を作成してもらうとともに、父と弟で任意後見契約を結んでもらうことにしました。今回は、筆者の体験談としてお話したいと思います。

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筆者の事例

筆者の両親は、都心から電車で30分ほどの郊外の一戸建(平成バブル期に父が取得)に老夫婦だけで暮らしています。10年ほど前から、母の物忘れに気づくようになったのですが、コロナ禍を経て他人との交流が激減したこともあり、母の認知機能の低下が一気に進んでしまったのです。

父は母の面倒を一人で看ていますが85歳と高齢です。父はまだ元気ではありますが、やはり年相応に老いつつあります。未だに、自動車やバイクを利用していますが、新たな道路が開発され、かつての道とは雰囲気が変わってしまうと道に迷うということが多発するようになり、この1年で、警察に保護されるという事件も起きるようになってきました。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

何が問題になるのか

母は、普通の会話が成立しない状態にまで状況が悪化し、一人で買い物もできる状態ではなくなっていたので、病院に連れていったところ認知症がかなり進んでいると診断され、介護認定を受けることになりました。父が一人で面倒を看られる間は二人で暮らしてもらうにしても、もし、父が亡くなったらどうなってしまうのでしょうか。筆者と実弟が最も不安になったことはこの点でした。

父が先に亡くなった場合、母の面倒を誰が看るかが問題になります。我々兄弟が面倒を看るという選択肢もありますが、仕事を考えると現実的ではありません。とすれば施設入所を選択せざるを得なくなります。父の財産のほとんどは、実家の土地建物しかないので、これを売却して施設入所のための資金源にするということになるでしょう。しかし、この場合は実家を売却できない可能性が高いのです。父が亡くなった場合、実家の土地建物を、母が半分、残りは筆者と実弟が4分の1ずつ相続することになります。しかし、認知症の母は不動産売買契約などの法律行為を自ら行うことは難しく、法定後見制度を利用せざるを得ません。法定後見制度を利用して自宅を売却する場合、裁判所の許可が必要となりますが、簡単には許可されないケースが多いのです。

遺言書で問題をまずは回避

そこで、父に相続が発生した場合、実家を筆者と弟に相続させるという内容の遺言書を父に書いてもらうことにしました。そうすれば、万が一のことがあっても、我々兄弟が母のために実家を売却し、施設入所の資金とすることができるわけです。

今回、遺言書の作成にあたっては、司法書士に相談しながら作成しましたが、ここにも大きな課題がありました。遺言書は自筆証書遺言を選択し、父に自筆で書いてもらうことにしました。財産が少ないので、文字数にして350文字程度です。しかし、日頃、文字を書くといっても、住所と氏名くらいですから、遺言書に出てくる漢字が書けず何度もやり直しになってしまうのです。結局書き上げるまでに3時間ほどかかりました。父は肉体的にも精神的にもかなり辛そうでした。遺言書を書いてもらうなら、もっと前に書いてもらえばよかったと後悔した瞬間でした。

任意後見制度の利用

父の老いが進んでいることを目の当たりにし、もし父も認知症になってしまった場合はどうすればよいかと考えるようになりました。そこで我々は任意後見制度を検討しました。任意後見制度とは、父が健常なうちに、将来、判断能力(事理弁識能力)が低下した後の財産管理等に関する事務について、父が選任した後見人に代理権を付与し、その処理を委託するというものです。

契約条項はかなり専門的な内容になっているため、司法書士と相談しながら作成しました。高齢の父が簡単に理解できるとは思えなかったため、何度か実家に行って事前説明をしました。契約は公正証書で作成する必要がありますので、司法書士とともに公証役場へ訪問することになります。公証役場でのやりとりを想定したリハーサルも実家で行いました。何度も父に説明を試みましたが、任意後見の意義については理解できているようでしたが、細かな部分は完全には理解できていたかどうかは定かではありません。これも遺言書同様、親の能力が衰える前から話し合いをしておくべきだったと感じています。

遺言と任意後見で自宅売却の課題はクリアに

本事案では実弟を後見人としました。任意後見契約によって、父の判断能力が大きく低下した際、裁判所に申し立てし任意後見監督人が選任されれば、父母の施設入所等のために、弟が父の代わりに実家を売却し資金調達することが可能となります。遺言書も作成済ですから、父が亡くなっても自宅売却が可能となり、母の施設入所のための資金調達も可能となりました。

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税金関係に注意

ここで注意が必要なのは税金関係です。筆者のケースでは、父の財産が相続税における基礎控除額より少なかったため相続税がかかりません。ですから、父の財産を兄弟が全て承継しても相続税の支払いに悩む必要はありませんでした。逆に財産が基礎控除より多い場合には、税理士と相談しながら進める必要があると思います。

もう一つは実家を売却する際の税金です。我々兄弟は実家に居住していないし今後もその予定がありませんので、居住用財産の3,000万円特別控除を利用できません。しかし父が実家を取得した時期がバブル最盛期だったことから、売却したとしても、当時の土地代のほうが高い可能性が濃厚であるため、譲渡所得税がかからないと考えています。もし、譲渡税がかかる可能性がある場合には、税理士と相談しながら遺言書の内容を検討したほうがよいと思います。

早めの検討と専門家への相談を

親が認知症になってしまい、施設に入所させる資金は子供たちで負担し、実家は売るに売れなくなったという事案は比較的多く見受けられます。筆者と同じような状況が想定できるご家族は思った以上に多いのではないでしょうか。親に対して遺言書や任意後見契約の話を切り出すのははばかられる面はありますが、親が元気なうちから話し合いを始める、専門家への相談を始めるということは大事なことだと思います。

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