株価下落は不動産市場に影響をもたらすか?

新型コロナウイルスをきっかけに、世界の経済活動に大きな影響を及ぼすのではないかという心理的な警戒感が急激に強まり、安全資産である金や円にマネーがシフト、株価は軒並み下落しています。一般に株価は世の中の経済動向予測をいち早く織り込みます。こうした株価下落が、不動産価格に影響を及ぼすかどうかについて今回は考えてみました。

株価下落

長期的には株価との間に相関関係あり

2008年4月から2019年11月までの不動産価格指数(戸建住宅・マンション(東京都))と同期間の日経平均株価(月次)の動きをまずは見てみましょう。以下のグラフに図示したように、日経平均とマンションについては似たような形状の折れ線グラフになっており、一定の相関関係が認められそうです。一方、戸建住宅についてはさほど相関関係があるようには見えません。

不動産価格指数と日経平均株価の推移

国土交通省「不動産価格指数」、ヤフーファイナンス「日経平均」より筆者作成

そこで、株価と戸建住宅、マンションそれぞれの価格指数について相関係数を算出してみることにしました。
相関係数とは、二つの異なる時系列データ、例えば、株式Aと株式Bの値動きについて、同じような動きをするのか、反対の動きをするのか、あるいはまったく関係がないのかを知る時などに利用される係数です。
相関係数は-1から+1までの数値で表され、0の場合は相関関係はなし、マイナスの場合は負の相関関係(一方が上がれば、もう一方は下がるという関係)、プラスの場合は正の相関関係(一方が上がれば、もう一方も上がるという関係)にあると考えます。
相関の強さは、-0.2~+0.2だとほとんど相関なし、│±0.2│~│±0.4│で弱い相関あり、│±0.4│~│±0.7│で相関あり、│±0.7│~│±1│で強い相関ありと一般には言われています。

計算してみると、日経平均と戸建住宅は0.674と中程度の正の相関関係が、マンションは0.934と強い正の相関関係があるという結果になりました。つまり、2008年から11年間という期間で見る限り、株価の変化と戸建住宅やマンションの価格変化には相関があるということがわかります。

短期や中期の株価変化は住まいの価格に影響をもたらすのか?

ここまでは2008年4月以降の動きを見てきましたが、2016年12月以降の直近3年程度に注目してみましょう。グラフを見ると相関が強いかどうかわかりにくいと思います。特に戸建住宅については相関があるようには思えません。

実際に相関係数を調べてみると、戸建住宅については0.083とほとんど相関は見られません。マンションについては0.498で中程度の相関があるという結果になりました。

このようにこの3年で見ると、株価は戸建住宅の価格に影響を与えているとは言えないようです。マンションは一定の相関はありとなっていますが、株価の水準にその都度影響されているというわけではなさそうです。実際、毎日の株価に一喜一憂して住まいの価格が決まるとは思えません。あるとすれば、今日の株価ではなく、私たちが一定の期間の中でなんとなく認識する株価水準、例えば、今日から過去1年程度の平均株価に対して住まいの価格が反応している可能性があります。

株価の影響は9ヶ月後に最も効いてくる

そこで、過去1年の月次平均株価(いわゆる12ヶ月移動平均)とマンション価格の相関関係を調べてみたところ、相関係数は0.790となりましたので強い相関があるという結果です。

ただ、これも1年の平均株価の動きに即座に反応しているわけではないと考えたほうが良さそうです。数年程度の短期では、株価の変化が徐々にマンション価格に影響していくと考え、株価と不動産価格指標を3ヶ月ずつずらして相関係数を計算してみました。

上記の表のように、株価の変化から3ヶ月後に0.832と相関係数が上昇、その後9ヶ月後がピークとなり、徐々に相関係数が低下していくという結果が出ました。つまり、過去1年の平均株価の変動が東京都のマンション価格に影響を及ぼす動きは、株価の変動から3ヶ月後から徐々に効き始め、9ヶ月後をピークに影響が小さくなっていくということになります。

住まいの価格は株価の下落でどうなるのか?

以上から、世界的に株価が下落していく可能性が示唆される昨今において、住まいの価格にこれらが少なからず影響を及ぼすと考えたほうがよいと思います。
特にマンションについては強く影響を受ける可能性がありそうです。
ただし、今日の株価が明日の不動産価格にすぐに反映するわけではありません。少なくとも過去1年程度の平均株価のように、知らず知らずのうちに私たちが認識した株価が住まいの価格に対して徐々に影響していくと考えられます。

ですから、日経平均株価が3ヶ月から9ヶ月以上にわたり20,000円を割った水準のまま推移するのであれば、マンション価格は下落する可能性があります。
もし、数ヶ月のうちに直近の高値水準であった24000円前後に戻り、かつその水準が継続するのであれば、マンション価格は現在の価格を維持する可能性があります。

一方、戸建住宅については、短期的には影響がないと思われます。
ただし、長期的に株価の低迷が続けば、徐々に下落するトレンドとなるのではないでしょうか。

住まいの価格は株価だけで決まるわけではありませんが、今後1年程度の株価動向を注視しておく必要はありそうです。

不動産・中古物件を買う

物件情報・売却に関することならこちら

ご留意事項  

本コンテンツに掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、当社の見解を示すものではありません。
本コンテンツに掲載の情報は執筆時点のものです。また、本コンテンツは執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び当社が保証するものではありません。
本コンテンツは、情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
本コンテンツに掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、当社は一切責任を負いません。
本コンテンツに掲載の情報に関するご質問には執筆者及び当社はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。