全国のマンション建替え事例282件を徹底検証

東京カンテイがマンション建替え問題に関する考察として、全国のマンション建替え事例282件を圏域分布、寿命面積の面から徹底検証しました。
東京都のみで建替えが加速する傾向が強く、建て替えられたマンションの“長寿化”が進んでおり、建替え後の専有面積は縮小傾向にあります。

全国のマンション建替え事例282件を徹底検証

都府県別 建替え件数分布
東京都の全国シェアは57.8%から63.1%に拡大

全体的な傾向としては建替えマンション事例の東京一極集中が見られる。

前回2014年6月時点での同種の調査では、建替えられた全202事例のうち東京都は57.8%に当たる117件が集中したが、約8年後には東京都では61件も一気に増加した。増加件数の次点は埼玉県(8→13件)の5件となっており、いかに東京都で急増したかがわかる。

東京都はマンションの黎明期である1950年代から1960年代に多くのマンション供給が都心部を中心に進んでいたため一定の集中傾向が出ることは当然の結果であるが、様々な面で東京一極集中傾向が見られることがこの動きをより加速させている。

1960年代後半から1970年代は郊外都市を中心に“団地の時代”となるが、これら団地の多くが“建替え適齢期”にあるにもかかわらず、多摩ニュータウンなど郊外団地で進んでいるとは言えない。郊外でバス便物件の多いこの時代の団地では、容積率に余裕があって建替えに余剰容積を活用できる場合であっても、余剰容積によって生み出される保留床住戸(≒増加住戸)の売却が期待できないために建替え決議が成立しないケースもある。従って保留床に大きな価値を与えられるか否かが現時点も今後も大きな問題となっている。

都府県別 建替え物件数分布

都府県別 建替え物件数分布

東京都の建替え件数178件の行政区別分布の内訳
港区と渋谷区がともに29件で最多で両区の合計シェアは32.4%に達する

最も件数が多いのは同率1位で東京都港区と渋谷区がいずれも29件(都内シェア16.2%)となった。前回の調査では、渋谷区が18件、港区が16件となっており、港区が増加のペースを上げたことで同率1位となった。港区では約8年で13件の建替えが行われ、全国で見ても最多の増加件数である。この2区だけで都内の32.4%を占めている。

以下、件数が多い順に3位新宿区13件、4位世田谷区11件、同列5位に文京区、大田区、杉並区の各9件が並ぶ。同じ東京23区であっても北区、足立区、江戸川区といった周辺エリアでは現時点でも建替えが確認できなかった。

東京都下の建替えは依然少ない。今回新たに八王子市、武蔵野市、小金井市が1件ずつ加わっている。立地に恵まれなければ建替えは難しくなっている。

うち東京都の物件数

うち東京都の物件数

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

建替え期間の長期化が進む

「マンションの竣工年から建替え物件が竣工するまでの期間」を“建替えられたマンションの寿命”と見なして検証したのが下表である。新旧の竣工年の比較が不可能な6物件を除く276件で検証した。

全国で一番多いのが「築40年以上50年未満」の34.4%、続いて「築30年以上40年未満」の28.6%、となっている。8年前(2014年6月)の同様の調査では「築30年以上40年未満」が一番多く36.5%となっており、ボリュームゾーンが長期化の方にスライドして“長寿化”が進んでいる。「20年未満」は僅かに2.2%に留まっている。

2020年以降で、実際に建替えられた物件は1970年代のものが多く、近年行われた建替え事例には築50年以上が経過したケースが多い。また2020年以降に建替えられたものは15階以上の高層物件に建替わっており、建替え前の10階以下から大きく姿を変えた事例が目立つ。

都府県別 建替え物件の築後経過年数分布

都府県別 建替え物件の築後経過年数分布

建替え前と後の専有面積の変化

マンション建替えを円滑に行う上で保留床を生む以外の戸数増加の策として、一戸当たり専有面積の縮小が見られる。今般のマンション価格高騰により専有面積を縮小させる動きが、建替えマンションにおいても如実に表れてきている。

概して従前物件はファミリー物件の割に狭く、古い年代では40m2台も散見される。しかしながら専有面積40m2以上60m2未満では、現代の基準からするとコンパクトマンションの範疇であり、ファミリー物件の標準とされる70m2前後には遠く及ばないことから、建替え後は概ね70m2前後を確保している。建替え年代が早いものほど従前物件が狭く、建替え物件が広めになる傾向で、拡大率も高い。

建替えマンションの建替えが好立地化しているため、従前物件の専有面積もかつてほど狭くなくなっている一方で、保留床創出や建替え費用抑制の観点から建替え後の物件の専有面積が縮小傾向となっている。東京都・神奈川県・埼玉県では2020年代以降は拡大率が110%を切っており、この傾向が年々顕著となっていることからも、“狭すぎる住戸からの脱却”が、既にマンション建替えにおける主要因とはならない、性質の建替えが増加していると考えられる。

建替え年代別建替え物件の平均専有面積変化

建替え年代別建替え物件の平均専有面積変化

当記事出典

当記事は株式会社東京カンテイ「カンテイアイ特集(2022年10月31日配信)」の情報を元に掲載しております。 当記事に掲載されている文書の著作権は、出典元である東京カンテイに帰属します。 掲載されている文書の全部または一部を無断で複写・複製・転記等することを禁止します。 また、当記事への直接リンクは固くお断りいたします。

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