2022年東京23区中古マンション価格予想

東京都23区の中古マンションは2013年以降、価格上昇を続け、昨年はその上昇度合いをさらに強めたと言われています。この間、所得水準が上昇したわけではないにも関わらず、なぜこのような状況になったのでしょうか。その理由から今後の動向について考えてみたいと思います。

2022年東京23区中古マンション価格予想

2006年以降の23区中古マンション価格指数(成約データについて各属性について品質調整したうえで2006年1月以降の隔月の価格を指数化したもの)と2008年以降の中古マンション平均単価推移をグラフ化してみました。いずれも2013年以降、価格上昇が続き、2021年はさらに上昇度合いが上がっていることがわかると思います。筆者は、2013年以降の価格上昇には4つの要因があると考えています。

(公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された成約データおよび同機構が公表している「市況データ」より筆者作成)

(公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された成約データおよび同機構が公表している「市況データ」より筆者作成)

金利と在庫

第1の要因は住宅ローン金利の低下です。ここではフラット35(返済期間21年以上35年以内、融資率9割以下。2017年10月以降は新機構団体信用生命保険制度への変更を加味し、一律0.28%を差し引いたレートとしています)の金利推移を見てみたいと思います。
第2の要因として、もう一つ併せて見ておきたいのが在庫件数です。金利が下がると利息の支払いが減ることで総返済額が減ります。よって返済総額が同じなら金利が低いほうが借りられる金額が大きくなります。これによってマンション価格が上昇することになります。一方、一般に在庫の減少(増加)は価格の上昇(下落)をもたらします。

次のグラフを見ると、2013年1月から2015年2月ごろまでは在庫は減少を続けるとともに、金利も低下していきました。その結果、マンション価格は順調に上昇を継続していきます。ところが在庫が2015年2月ごろに底を打ち、その後急激に在庫が積み上がります。この在庫の積み上がりによるマンション価格下落を打ち消す以上の効果をもたらしたのが、金利の急激な低下です。2017年から2020年夏ごろまでの金利と在庫は概ね横ばいでしたから、これ以前の金利と在庫がマンション価格に大きな影響をもたらしていたと考えられます。

なお、2020年夏から在庫が減少していますが、これが最近の価格上昇に影響を及ぼした一つの要因だと考えられています。実際、現場からは売り物件がないという声が多く聞かれました。

(在庫推移は公益財団法人東日本不動産流通機構「市況データ」より、フラット35金利推移は独立行政法人住宅金融支援機構「借入金利の推移」より筆者作成)

(在庫推移は公益財団法人東日本不動産流通機構「市況データ」より、フラット35金利推移は独立行政法人住宅金融支援機構「借入金利の推移」より筆者作成)

共稼ぎ世帯の増加

第3の要因は共稼ぎ世帯数の増加です。共稼ぎ世帯は1990年代から2010年ごろまでは微増傾向でしたが、2011年以降は増加傾向が顕著になっています。共稼ぎ世帯の増加に伴い、夫婦の世帯年収が1000万円を超えるようなパワーカップルと呼ばれる世帯もよく見かけるようになりました。

世帯収入が同じであっても、一人が収入を得ている場合と二人で得ている場合、一般に税金面でも手取収入が変わります。日本の所得税は累進税率ですから、収入が低いほうが税率は低くなりますので最終手取額は共稼ぎ世帯のほうが大きくなります。また、夫婦でそれぞれ住宅ローンを組めば住宅ローン控除の効果も最大2倍まで効いてきます。こうしたパワーカップルに対する税制面での優遇も住宅への投下資金の増加を促し、マンション価格の上昇につながっている面があります。

(独立行政法人労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯」より筆者作成)

(独立行政法人労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯」より筆者作成)

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

株価の上昇による両親からの住宅取得支援

株価がマンション価格に影響しているのは、以前にもこのコラム( 「株価下落は不動産市場に影響をもたらすか?」)で指摘している通りです。現場において感じるのは、初めてマンションを買う方の中にはご両親から住宅取得の金銭的支援を受ける方が思った以上にいらっしゃるということです。おそらくこの支援を後押ししているのが第4の要因である株価上昇ではないかと筆者は考えています。つまり株価上昇による資産効果が、子供たちの住宅取得に一役買っているということです。

以下は月次の日経平均株価終値をグラフ化したものです。筆者が注目しているのは、2020年春以降に、これまでにないほどの上昇を見せていることです。おそらく2020年以降の中古マンション価格の急上昇は株価も大きく影響しているものと思われます。

(ヤフーファイナンスにて公表されている日経平均株価データより筆者作成)

(ヤフーファイナンスにて公表されている日経平均株価データより筆者作成)

4つの要因はまだ続くのか

住宅ローン金利はフラット35やその他の商品も含め、今のところ横ばいを続けています。今年中に金利が急上昇するとは考えにくいですし、金融機関の体力を考えれば今以上に金利が下がるということはないと思います。ですから、かつてのように金利が中古マンション価格に影響を与えることはなさそうです。

一方、在庫件数は昨年春以降、増加傾向となっています。在庫が2020年5月ごろから減少したのは、コロナ禍による様子見モードが続いたからではないかと筆者は考えていますが、その様子見モードが終わった可能性があること、中古マンション価格がまだまだ上昇するとは思えなくなり、そろそろ売ろうと考える方が増えたことから在庫が上昇傾向となっていると思われます。

共稼ぎ世帯が今後さらに増加するかどうかですが、共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の合計世帯数(勤労世帯数)は2013年以降微減が続いていますし、2013年以降、前年比で増加し続けた共稼ぎ世帯も2020年は5万件減ったという事実がありますので、共稼ぎ世帯の増加による中古マンション価格の上昇もあまり期待できないのではないでしょうか。

最後に2022年の日経平均については、コロナ禍からの回復で一段高、回復はすでに株価に織り込み済み、22年後半から調整局面を迎えるといった様々な予想がありますが、筆者は、2022年は概ね横ばいと見ており、中古マンション価格の押し上げ要因にはなりにくいと考えています。

2022年の方向性は

以上のことから、23区の中古マンション価格は、2022年前半では横ばい傾向、在庫積み上がりが継続すれば、後半から調整局面が訪れると予想しています。ただし、23区全体が平均的に下がるとは考えていません。例えば、最寄り駅までの距離に対する評価が従来よりも高まっている、価格調整が進みやすい物件とそうでない物件とでの格差が広がる可能性が高いからです。

ただし、価格調整が進みやすい物件の場合、平成バブル崩壊のような大幅な価格調整にはならないと考えています。少なくとも投機ではなく実需取引が多いということ、投資用で買われるとしても、平成バブル時代のようにマンションを貸した場合の運営経費控除後利回りより、借入金利のほうが高いという逆ザヤ状態であるにもかかわらず価格が上昇するといった理論価格を超えた高騰にはなっていないと考えられるためです。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

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