一都三県の基準地価動向にみる住宅価格の変動

2021年の一都三県における基準地価変動率(市街化区域に存する住居用途)は筆者の調べによると、東京都0.26%(前年度0.25%)、神奈川県0.01%(同▲0.7%)、埼玉県0.09%(同▲0.15%)、千葉県0.45%(同0.05%)と、東京都は上昇率が横ばい、神奈川県と埼玉県は下落から上昇へ、千葉県は上昇率アップといった結果となりました。しかし現場の声を聞くと、このような平均値とは違った感覚を抱かざるを得ない面があると筆者は感じています。

一都三県の基準地価動向にみる住宅価格の変動

上昇率トップ10から見える変化

まず、過去3年の価格上昇地点トップ10を見てみることにしましょう。上昇率の高い地点を明らかにすることで、上述のような平均値データとは異なる姿が分かる場合があるからです。

以下に示したように、令和3年基準地価の上昇地点トップ10には、都区部が一つもはいっていません。令和1年7月1日時点においては、東京都区部のランクインが多かったのですが、翌年には都区部のランクインは激減、令和3年基準地価において都区部のランクインはなくなり、代わりに、千葉県と神奈川県の基準地がランクインするという結果になっています。トップ10の平均上昇率も、3年前は9.54%、去年が4.48%、今年が4.65%と上昇度合いが落ちています。

冒頭の平均変動率を踏まえて考えてみると、東京都のうち都区部における上昇率が落ち着きを見せ始め、代わりに千葉県と神奈川県の一部で、かつての都区部ほどではないにせよ、比較的高い地価の上昇がみられるという状況になっているようです。

基準地価上昇率 上位10位
(令和2年7月1日~令和3年7月1日)
所在並びに地番 路線 駅名 変動率
千葉県市川市新田2丁目1223番1 JR中央・総武線 市川 5.62%
千葉県船橋市本町4丁目1519番1 JR中央・総武線 船橋 5.12%
千葉県木更津市清見台南3丁目10番4 JR内房線 木更津 4.69%
神奈川県横浜市西区岡野2丁目8番22 相鉄本線 平沼橋 4.68%
千葉県柏市柏6丁目669番3 JR常磐線(上野~取手) 4.64%
神奈川県相模原市緑区橋本1丁目381番25 JR横浜線 橋本 4.51%
千葉県市川市菅野2丁目141番13外 JR中央・総武線 本八幡 4.47%
千葉県船橋市本町4丁目1519番1 JR中央・総武線 船橋 5.12%
千葉県市川市福栄1丁目14番13 東京メトロ東西線 南行徳 4.41%
神奈川県相模原市緑区西橋本2丁目601番11 JR横浜線 橋本 4.40%
神奈川県大和市中央2丁目526番2 小田急線 大和 4.31%

(令和1年7月1日~令和2年7月1日)
所在並びに地番 路線 駅名 変動率
埼玉県 川口市並木元町55番4 JR京浜東北線 川口 5.24%
千葉県 君津市中野5丁目14番16 JR内房線 君津 5.19%
千葉県 袖ケ浦市袖ケ浦駅前1丁目18番3 JR内房線 袖ケ浦 5.17%
埼玉県 川口市飯塚1丁目120番3外 JR京浜東北線 川口 5.12%
東京都 港区赤坂一丁目1424番1 東京メトロ銀座線 溜池山王 4.19%
千葉県 君津市北子安6丁目1番3 JR内房線 君津 4.16%
神奈川県 横浜市中区山手町247番6 みなとみらい線 元町・中華街 4.04%
東京都 新宿区市谷甲良町35番2外 都営大江戸線 牛込柳町 3.96%
神奈川県 相模原市緑区橋本1丁目381番25 JR横浜線 橋本 3.91%
千葉県 君津市人見3丁目24番3 JR内房線 君津 3.81%

(平成30年7月1日~令和1年7月1日)
所在並びに地番 路線 駅名 変動率
千葉県 柏市大室字正連寺前172番3 つくばエクスプレス 柏たなか 11.55%
東京都 豊島区高田一丁目343番5 東京メトロ副都心線 雑司が谷 10.86%
東京都 足立区千住中居町16番43 JR常磐線(上野~取手) 北千住 9.47%
東京都 荒川区荒川二丁目21番35外 京成本線 町屋 9.45%
東京都 豊島区北大塚一丁目26番3 JR山手線 大塚 9.34%
埼玉県 川口市並木元町55番4 JR京浜東北線 川口 9.14%
埼玉県 川口市飯塚1丁目120番3外 JR京浜東北線 川口 9.12%
東京都 江東区有明一丁目106番3外 ゆりかもめ 有明テニスの森 9.00%
東京都 荒川区東日暮里二丁目1836番2 東京メトロ日比谷線 三ノ輪 8.84%
東京都 豊島区巣鴨一丁目35番6 JR山手線 巣鴨 8.57%
  • (国土数値情報ダウンロードサービスより都道府県地価調査データを入手し筆者にて作成(以下同じ))

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

地図で見ると一目瞭然の地価変動

さて今度は、一都三県の市街化区域に存する住宅用途の基準地価について、令和3年7月1日時点および令和2年および令和1年同日時点それぞれの価格に対する前年比変動率について調べ、それを地図上にプロットしてみました。

図1令和3年前年比変動率プロット地図
図2 令和2年前年比変動率プロット地図、図3 令和1年前年比変動率プロット地図

※地図下のスケールは変動率を示しており、右端は5.2%超、左端は▲6.0%未満を示しています

地図を見ると、徐々に都心部の価格上昇が弱まっていくのがよくわかります。特に今年は都区部の上昇率が大きく抑えられ、まばらではありますが周辺にやや上昇率の高い地域が残ったような状況です。

令和3年における上昇率の高い地域はどこか?

上昇地点を沿線別、最寄駅別で見てみるために、令和3年の前年比で2.5%超の上昇率となった85地点の最寄駅を以下の表にまとめてみました。千葉県だと市川から船橋エリアと木更津エリア、神奈川県は横浜駅近郊エリア、相模原および大和エリアと南武線沿線、埼玉県は浦和、川口、戸田エリアといった、都心部へのアクセスが比較的よい周辺エリアの価格上昇が目立っています。

千葉 市川~千葉 総武線(市川、本八幡、船橋、津田沼、西千葉、千葉)
東西線(浦安、南行徳、妙典)
京葉線(舞浜、新浦安)、京成本線(海神)
内房 内房線(袖ヶ浦、巌根、木更津、君津)
常磐線(柏)
つくばエクスプレス線(柏の葉キャンパス、柏たなか)
その他 北総線(印西牧の原)、東武野田線(高柳)
神奈川 横浜駅近郊 横須賀線(東戸塚)、東海道線(戸塚)、根岸線(港南台)
京浜急行線(上大岡)、ブルーライン線(三沢上町)
相鉄・JR直通線(羽沢横浜国立大)、相鉄本線(平沼橋、二俣川)
東急東横線(綱島)、横浜線(大口)
湘南 東海道線(大船、平塚)、横須賀線(逗子)
相模原・大和 横浜線(橋本、相原)
小田急線(相模大野、海老名)小田急江ノ島線(中央林間、大和)
その他 南武線(武蔵中原、登戸、矢野口、稲城長沼)
東急田園都市線(鷺沼、あざみ野)
埼玉   埼京線(戸田)、埼玉高速鉄道線(浦和美園)、京浜東北線(川口)
東武東上線(高坂、東松山、森林公園)
東京 都区部 山手線(鶯谷、高田馬場、大崎、田町)、銀座線(溜池山王)
ゆりかもめ線(有明テニスの森)
都下 中央線(吉祥寺、立川)、京王線(調布、東府中)
京王相模原線(京王よみうりランド)

驚くことに、東京都区部で2.5%超の上昇となった地点の最寄駅は6駅しかありませんでした。都区部の勢いが落ちているのは明白なようです。一方で、都内からのアクセスが比較的良い周辺地域の上昇率が目立つという結果になっています。

今後の住宅地はどうなるか?

前年比▲2.5%未満となった地点の主な鉄道沿線と最寄駅で見てみると、三浦半島(京浜急行線京急久里浜駅~三崎口駅、追浜駅~浦賀駅、横須賀線衣笠駅)、神奈川県西部(東海道線平塚駅~二宮駅、小田急線本厚木駅~秦野駅)、野田市(東武野田線野田市駅~七光台駅)などとなっていました。これらの駅を最寄駅とする基準地はいずれも最寄駅までの距離が平均で約2.8キロメートルといった場所に立地していましたが、先の表でお示しした前年比2.5%超の上昇を見せた85地点については平均約900メートルとなっていました。

コロナ禍に伴うリモートの進展によりリモートワーク(テレワーク)等が普及し、戸建を買うなら自然に触れられる環境が近い場所を選びたいといった行動が表れているのではないかと筆者は考えています。その結果、都心部より周辺部の人気が高まったのではないでしょうか。ただし、郊外ならばどこでもよいということではなく、都心部への交通アクセス、最寄駅への距離といった要素は依然として価格に大きく影響しているようであり、今後もこのような傾向が続くのではないかと考えています。

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