相続対策のための不動産投資 注意したい3つのこと(2)
不動産投資においては、失敗しないために押さえておきたい3つのポイントがあります。一つは「賃料下落を視野に入れること」、次に「大規模修繕のための積立をすること」、最後に「キャッシュフローが悪化する仕組みを知ること」です。今回は第二回目として、「大規模修繕のための積立をすること」について考えてみることにしましょう。
大規模修繕費を加味していない事業収支
投資用不動産の購入や賃貸住宅建築を検討する場合、借入返済時期までの事業収支予想を不動産会社や建築会社に作ってもらい、中長期的な収支の状態を判断材料の一つとすることが一般的です。前回は、この収支予想の内、賃料の下落や空室について注意しましょうというお話をしましたが、今回は支出部分に注目します。
賃貸事業における支出は、管理委託費、建物管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税、水光熱費、保険料、金利などがあります。事業収支予想における修繕費は、一般に経常的な支出が費用計上されており、例えば、水漏れ修繕、電球などの交換、共用部の壁や床などの軽微な破損修繕、設備機器等の小修繕などが含まれます。
しかし、修繕費にはもっとお金のかかる屋根の塗装・補修や防水・葺き替え、外壁塗装やタイル張り補修、給湯器やエアコンの交換、給排水管の高圧洗浄・取り換え、階段や廊下などの鉄部塗装や防水などの大規模修繕があります。これら大規模修繕の計画が事業収支に反映されていないケースが散見されるのです。こうした費用がかかることを計画に反映しないままでいたことによって、大規模修繕を行う時期が到来した際、手元に修繕費用がなくて困ったというケースをよく耳にします。
大規模修繕費用の目安
ところで、大規模修繕の目安とはどの程度なのでしょうか?
建物の構造や規模などによって異なりますが、国土交通省が公表している「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」が参考になります。次の表は、このガイドブックに記載された修繕費の目安をまとめたものです。
鉄筋コンクリート造20戸(1LDK~2LDK)の場合、30年間で約4,490万円(1戸あたり約225万円)の大規模修繕費用がかかるということになっていますが、思ったより大きな金額になることが分かると思います。1戸あたりで換算すると約7万5,000円(225万円÷30年)を毎年積み立てておく必要があるということになります(木造10戸(1K)でも年間約6万円程度の積立が必要となります)。仮に1戸あたり10万円で貸せる場合、年間賃料に対して6%程度を大規模修繕の積立金として見積もっておく必要があるということです。家賃が下落する可能性が高いこと、空室率も考えておかなければなりませんが、大規模修繕の積立金は賃料が入いろうが入るまいが関係ありませんので、時間の経過とともに賃料に対する積立金の割合が高くなっていく可能性があることも忘れてはならないのです。
しかもこの大規模修繕に必要なお金の積立は、積み立てている間は経費として売上から控除できないので、税金を支払った後の手取り額から積み立てなければならないのです。お金を借りている場合、当然ながら税引後の手取り額から借入返済をした後の最終手取り額から積み立てることになります(この点については、次回詳しくお話しします)。
大規模修繕費の積立をせずに消費してしまうと・・・
このように、建物や設備を長期間にわたって維持していくためには、かなりのお金がかかるのですが、投資用不動産購入の提案を受けるとき、あるいは賃貸住宅などの建築提案を受ける時には、大規模修繕費を事業収支計画に反映してもらえるケースが必ずしも多くないため、キャッシュフローが潤沢な唯一の時期(築年数が浅い時期)に得た最終手取額を、ついつい消費に回してしまうということが発生します。
キャッシュフローが潤沢な唯一の時期というのは、築年数が浅い時期は、空室率も低く賃料も比較的高くなるということと、借入を伴う投資用不動産のキャッシュフローが築浅の時期は良好なものの、時間の経過とともに(特に15年目を経過した以降)悪化しがちであるという構造的な理由(詳しくは次回ご説明します)があるからです。
この時期に大規模修繕のための資金を貯めていないと、築後10年から15年目の時期の大規模修繕が手元資金では実行できないことになります。仮に大規模修繕を行わないとした場合、他の賃貸物件との対比で競争力は低下しますので、空室率が高まったり、退去者が出るたびに賃料が他の物件より低くなっていくことになります。15年目を過ぎると、キャッシュフローが悪化しがちとお話しましたが、そんな状況でさらに大規模修繕のための資金を貯めていくことは困難になります。そして、建物の劣化、機能の陳腐化(旧式の設備のままで機能性が相対的に低くなること)といったことが競争力の脆弱化を助長し、さらなる空室率の上昇、家賃下落という負のスパイラルに陥っていくことになります。
これを避けるためにも、投資の検討段階から大規模修繕費を踏まえた事業収支計画を策定し、最終手取額からその資金を積み立てておくことが重要なのです。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
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