少し小さめ、駅近がより人気に~中古マンション需要の嗜好変化

東京都区部の中古マンション価格は2012年ころに底を打って以降、その上昇が継続しています。住宅ローン金利の低下による需要増加、共稼ぎ世帯の増加による需要増加が影響したという意見もありますし、コロナ禍の影響で供給が減ったことも影響したと言われています。このような価格上昇を見せてきた都区部の中古マンションですが、この10年間で需要側のニーズにも何かしらの変化があったのではないかと筆者は感じています。今回は、そのニーズ変化を探るとともに、今後のマンション需要について考えてみようと思います。

中古マンション需要の嗜好変化

中古マンション価格を決める要素

一般に、中古マンション価格(成約単価)は、所在エリア、所在階、専有面積、築年数、最寄駅までの徒歩分数といった属性で形成されると考えられます。例えば、最寄駅に近いほうが価格は高くなるでしょう。専有面積が大きくなると総額も大きくなりますので、購入できる需要者が減り、結果、単価が下がりやすくなります。所在階が上になればなるほど価格は高くなるといった傾向があるというのも納得できます。このほか、ベランダの向き、眺望や設備機器の良し悪しなど、価格に影響する属性は数えきれないほどあると考えられます。

今回の調査では、所在階、専有面積、築年数、最寄駅までの距離というマンション価格を形成する主要な4つの属性がどのように変化してきたのかを重回帰分析という方法を利用して調査しました。重回帰分析とは、今回の調査に置き換えて簡単に説明するならば、マンションの成約単価が、所在階、専有面積、築年数、最寄駅までの徒歩分数、所在する区が1単位変化することによって、成約単価が何%変化するのかを調べる方法だと考えてください。使用したデータは公益財団法人東日本不動産流通機構の成約データで、2006年1月~2022年4月までに東京23区内で成約した物件のうち、専有面積50m²~80m²で欠損値のない有効なデータ109,466件です。専有面積を50m²から80m²までとしたのは、分析範囲を二人世帯から四人世帯程度の一般的なファミリー世帯のニーズ変化をとらえることを目的としているからです。

分析結果

所在階

所在階が1階上がると、成約単価は何%上がるのでしょうか。そしてこの傾向に変化はあったのでしょうか。これを調べた結果が次のグラフです。縦軸は係数と呼ばれるもので、所在階が1階上がると成約単価が何%変化するかを示しています。グラフを見ると係数はずっとプラスになっていますので、所在階が1階上がると成約単価も上がるという意味になります。2006年は所在階が1階上がると1.2%弱アップしていましたが、2009年以降は0.8%程度のアップで安定しています。


専有面積

専有面積は面白い傾向が出ています。まず、2015年までは係数はプラス、2016年以降はマイナスになっているということです。これは、2015年までは専有面積が大きくなると成約単価が上がるという傾向があったものの、2016年以降は全く逆になっているということです。広い物件のほうがかつては好まれていたものの、2015年までにその影響度合いはどんどん小さくなり、2016年以降は狭いほうが成約単価はアップする、つまり、需要者が好んで選択しているという解釈ができるのです。

狭い物件に対する選好が高まっているという背景には、世帯あたり人数の減少ということがまずは考えられます。実際、東京都のデータによると2006年の世帯あたり1.98人、2022年は1.82人と減少しています。筆者はこれよりも有力な背景は、マンション価格の上昇だと思っています。価格が上昇していくにつれ、専有面積が大きな物件を購入しにくくなり、結果として、狭い物件への需要が高まったということではないかと考えています。


築年数

築年数の係数はすべてマイナスです。つまり築年数が1年増えれば、成約単価は下がるということを意味しています。2006年から2012年までは、築年数が古くなるとより価格が下がりやすい傾向がありました。しかし2013年以降はその影響が徐々に小さくなる傾向にあります。つまり、需要者は築年数を従来ほど気にしなくなってきているということです。実際に、東日本不動産流通機構によれば、東京都内における2006年における築30年以上の中古マンション成約割合は13.0%で、その後その割合はどんどん高まり、2021年には29.7%にまで上昇しているのです。

価格の上昇で築年数の浅いマンションが購入しにくくなってきたことも背景にあると思いますが、2012年以降になると、築30年のマンションは新耐震基準の物件である可能性が高くなり、築年数が古くても安心感を持てるようになったこと、リノベーションブームの効果も手伝って、築30年以上の物件に注目が集まっていったのではないかと筆者は考えています。


最寄駅までの徒歩分数

最寄駅までの徒歩分数は、当然ながら、遠くなると成約単価は下がるという傾向が出ています。
2014年までは1分遠くなると▲1.5%程度、成約単価が下落する傾向でしたが、2015年にその度合いが▲1.8%程度に変化しています。これは、最寄駅により近い物件が好まれる傾向が強まったということになります。2015年に大きな変化が生じた理由ははっきりとは分かりませんが、2015年の税制改正で住宅取得資金にかかる非課税枠が、従来の500万円から1,000万円に拡充され、これを利用する方が増えたことが背景にあったのではないかと思います。

その後もより最寄駅への近さが重視され、最近では▲2%程度で推移しています。これは、共稼ぎ世帯の増加も背景でしょう。共稼ぎ世帯は最寄駅へのアクセスの良さを重視する傾向があり、それが年々強まっていったようです。


保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

古くても駅近、少し小さめが人気の主流に

このように専有面積、築年数、最寄駅までの徒歩分数については大きな変化が見られました。コロナ禍で暮らし方や働き方が変化し、郊外へ移転するニーズが高まっているという話もありますが、中古マンション価格は上昇を続け、築年数の経過よりも、最寄駅へのアクセスの良さが従来以上に重視される傾向が見られました。そして専有面積は、従来よりも狭い面積が好んで選ばれるという結果になりました。今後も需要の高いマンションは、多少古くても駅近、比較的小さ目なファミリータイプまたはDINKSタイプが市場を支える物件の主流となりそうです。このことは、仮に今後、価格調整局面が訪れたとしても、この状況はしばらく維持される、すなわち値崩れしにくい物件の特徴となるのではないかと筆者は考えています。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

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