将来の自宅売却を考えるなら修理などの履歴(家歴)をしておくのが得策

最近では新築戸建てから既存戸建てにも住宅購入希望者の目が届くようになってきました。そのため将来、所有住宅を売却しようとしたときに、一般的に、築30年だから建物の価値はゼロで土地値だというこれまでの既存戸建て市場の考え方と違ってくると思います。下記で説明するインスペクションを国レベルで推し進めようとする政策もその流れに沿っています。将来インスペクションが既存戸建ての売買に必須となる時代になれば、次には住宅履歴が住宅の価格に影響することになると思われます。

インスペクション


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1.中古戸建ての不動産事情

日本の既存戸建ては中古戸建てと言われ、立地や規模・間取り・仕様以外では築何年という情報しか不動産情報では記載されません。同じ建物で維持管理がなされていない住宅では、新築後経過年数に比例して評価額が減少してもおかしくありません。しかし、既存戸建てといっても、適切な維持管理がされずに劣化しているものから、維持管理がしっかりされている建物についても、不動産情報としては玉石混合状態で公表されているため、実際に建物を見るまで正確なことは分からないのが実情です。

2.インスペクション(注1)は必須になるか

2018年4月1日より宅建業法改正で既存住宅の仲介業務に住宅状況調査の説明が義務化されました。
住宅状況調査は、般的には住宅診断・住宅詳細調査・ホームインスペクションと言われ、2009年には日本インスペクターズ協会がつくられています。既存戸建ては建築の知識のない購入者が建物を見ても表面的な汚れ程度しか確認できません。専門家なら構造や雨漏りなどの不具合が確認できますので、購入希望者は安心して既存住宅を購入することができます。 

アメリカではインスペクションが融資や保険の必須条件となっており、取引全体の70~90%の割合でホームインスペクションがおこなわれています。今回の日本での宅建業法の改正では、住宅状況調査の説明が義務化されただけで、調査そのものを行うかどうかは売主の判断に任せています。実際に調査を進める場合の対象箇所は「構造耐力上主要な部分」「雨水の侵入を防止する部分」の二つに関わる部分についてで、給排水などの設備については調査会社のオプションとなっています。
しかし、私はアメリカのように今後インスペクションは必須になる可能性を秘めていると考えています。終身雇用制が薄れてきている日本では、融資する金融機関側から考えれば、将来的に返済が滞る可能性も否めません。そのような場合、売却により残債を回収する時に対象の住宅に問題があると売却リスクが付きまといます。そのリスクを少しでも回避するには、融資対象の物件に問題がないかを調査したほうがリスク回避につながるからです。

注1:インスペクションとは既存建物を第三者の専門家が詳細に検査・調査することで、国土交通省が率先してガイドラインを作成し当初は「既存住宅現況検査」と称していました。宅建業法改正で「既存住宅状況検査」と変更しましたが、法律用語では英語記載が禁止のためこのような文言になっています。

3.劣化事象が見えないからよいとは言えない

それでは実際の建物を見て大きな劣化事象が見当たらなければ評価は同じなのでしょうか。

例えば屋根からの雨漏りが取引時点で問題がなくとも、15年前に葺き替えたものと3年前に葺き替えたものとは違います。これは住宅のすべての部位について言えることで、建物の実際の性能は外見や動作だけでは専門家でも正確にはわからないのです。現時点で劣化等の不具合が生じているのかは問題外ですが、一見問題がないとしても新築から現在に至るまでの間にどのような修繕やリフォームが行ったのかの情報が建物の評価に影響するのは当然で、買主にとって今後の維持管理の大きな目安になるのです。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

4.住宅履歴が建物評価に影響する

これまでにどのような修繕やリフォームを行ったのかという情報は住宅履歴または家歴とも呼ばれます。人を採用する場合は面接時に履歴書を提出させるのが一般的で、履歴書未提出では採用が危ぶまれます。中古戸建てでも同様で、売買時にも履歴があるものとないものとでは、建物が同じなら購入されやすいのです。住宅履歴として書面でしっかり残しておくことで、建物価格に反映される可能性も大きいのです。

アメリカではパブリックレポートとして公的に記録され公開されている州も少なくありません。今後は日本でも、インスペクションに加えて住宅履歴が、将来の売却時の住宅価格に影響を与えるものと思われます。住宅所有者自身が施工業者の見積り等の履歴を残す方法が最も容易ですが、「いえかるて」(注2)という住宅履歴情報蓄積サービスがあります。住宅を建てるにあたって必要となる設計図書や重要な書類、住宅の維持メンテナンスやリフォーム工事時の各種書類を電子データ化し、専用のサーバーで長期間保管する履歴情報の蓄積サービスです。住宅事業者や不動産事業者を通してお申し込みできますので、検討してみるのも一方策です。

図表3 売却期間別の価格乖離率の変化

5.住宅の維持管理を怠らないことが将来の資産につながる

アメリカでは所得層により住むエリアが分かれているため、田舎は別として同じ家に生涯住むことは少ないといわれています。そのため、家を買った時から売ることも考え、維持管理をしっかりとすることが上手に売却できることだという認識があるようです。
一方、日本では家を買ったら一生ものとして転居することが少ないのが一般的です。そのため、住めればよいという最低限の維持管理しかしていないのが多数派でしょう。そのため、何かの理由で売却しようとすると劣化部位が多く、家そのものの評価は少なく土地値となってしまうのです。

今後、維持管理をしっかり行い、修繕やリフォームが発生した場合は、その内容と時期を住宅履歴として保存しておくことで建物評価に大きく関係することになり、建物の評価が不動産価格に反映される時代になる可能性は大きいのではないでしょうか。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

6.所有住宅の資産性の維持には維持管理の履歴を残しましょう

少子高齢化社会に突入している日本では、高齢者の将来生活を考える上で所有住宅の資産化を国土交通省が提言しています(下図参照)。20~30年たった既存住宅は売却する場合に建物価値はゼロに近く、土地だけの価値で土地値といわれる日本でしたが、高齢化時代を見据えると、将来所有する住宅を売却する際に建物部分を含めた価格で売却でき、売却益を老後の生活資金等に利用できるという提言です。

将来の自宅の売却を考えると、日ごろから維持管理を怠らないだけでなく、維持管理の履歴を残しておくことが、資産性を維持することにつながると思います。

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