民法改正と住まいのインスペクション

今年4月、約120年の時を経て民法が大改正されます。住まいの売買取引に関しては、瑕疵担保責任の規定が全面的に見直され、契約不適合責任という規定に変わるということが最も大きなポイントとなります。

民法改正

瑕疵担保責任より売主責任が重くなる

瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とは、売買の対象物に隠れた瑕疵(外部から容易に発見できない欠陥や不具合)がある場合、売主が買主に対して負う責任を言います。隠れた瑕疵を買主が発見した場合、買主は売主に対して契約解除や損害賠償の請求を主張することができます。

今回の改正では、「瑕疵」という表現を「契約不適合」、すなわち「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」と規定しなおし、一般に理解しやすい表現に変更されます。住まいに置きなおしてみれば、例えば建物の品質が契約当事者の合意内容と異なる、例えば雨漏りなどの問題があるといった場合などが考えられます。

契約不適合責任は、瑕疵担保責任で認められていた損害賠償請求と契約解除のほかに、追完請求(補修などの請求)、追完がなされない場合には代金減額請求ができるようになります。また、瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」が要件でしたが、契約不適合責任においてはその要件がなくなりました。たとえば、買主が契約以前から雨漏りなどの欠陥があることを知っていた場合、売主は瑕疵担保責任を負う必要がありませんでしたが、契約不適合責任では、このような場合でも売主は責任を負わなければならないことになります。

不動産会社が提供するリフォーム済み物件などの品質が向上

売主が不動産業者で買主が一般個人となる取引の場合、物件の引き渡しから2年以上の期間について瑕疵担保責任を負わなければなりません(宅地建物取引業法第40条)。民法改正後においてもこの規定は効いてきますので、売主が不動産業者である場合、売主は契約不適合責任について物件の引き渡し日から2年以上負担しなければならないということになります。

重要なのは、契約不適合が「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」と規定されている点です。品質について契約の内容と適合しているか否かということが論点になりますので、不動産会社である売主は契約するまでに契約の内容に適合する品質を定義しておく必要があります。

例えば、売主が不動産会社となるリフォーム済み中古マンションなどは、どの部分をどのように交換し、何をもってグレードアップしたのかをきちんと説明できる状態にしておく必要がありそうです。見える部分だけリフォームした物件なのか、見えない部分まで手を入れた物件なのか事前に明確化せざるを得なくると思います。そうしないと買主から追完請求や代金減額請求をされかねないリスクが高まるのではないでしょうか。

とすれば、今回の民法改正で、よりよいリフォーム物件が出てくる環境が整う可能性があるのではないかと筆者は考えています。

一般消費者同士の中古住宅取引には大きな影響はない?

一般消費者同士の売買取引の場合、大きな変化は起こりにくいと思われます。というのは、契約不適合責任は瑕疵担保責任と同様に任意規定だからです。つまり、売主と買主の合意があれば、契約不適合責任を免責にしたり、契約不適合の範囲を限定しても法的に問題はないのです。

現在においても、一般消費者同士の取引の場合、瑕疵を建物構造上主要な部位の木部の腐食、雨漏り、給排水管の故障、シロアリの害に限定したり、売主が責任を負う期間は引渡しから3か月以内というものがほとんどです。築20年以上の建物の場合、瑕疵担保責任免責というものもよく見かけます。

恐らく、民法が改正されても、これまでと同じように契約不適合の範囲を限定した取引が主流になる可能性が高いと筆者は考えています。

インスペクションによる品質明確化で差別化も

不動産売買契約書

今回の改正からすれば、契約不適合の範囲を限定するといっても、限定された範囲において「契約の内容に適合」した品質についてはきちんと定義される必要があります。品質の定義は、不動産会社の定型書式の通りで行われるだけでなく、売主がインスペクション(建物調査)を経て瑕疵保険を付保することなどで主体的に品質を明確化してもよいわけです。そうすれば他の物件よりも差別化され相対的に価格が上昇する可能性も生まれます。

買主が売買交渉の過程でインスペクションを行うことで品質のチェックを求めることも今後一般的になるかもしれませんので、「買主によるインスペクション可能」として販売することも差別化になるかもしれません。

今回の民法改正は、売主と買主が今回の改正を理解し、契約の内容に適合した品質についてお互いに考え、合意して取引せよというメッセージを発していると筆者は考えています。こうしたことが民法改正をきっかけに一般的になれば、一般消費者同士の住まいの売買取引が従来以上に活性化するかもしれません。

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