水害リスクと不動産価格
このところ、豪雨被害のニュースが続いています。2024年8月7日の夜には、関東甲信で急速に雨雲が発達し、首都圏で猛烈な雨が降りました。埼玉県川越市など県内8市町に「記録的短時間大雨情報」が発表され、東京都心や練馬区でも1時間50ミリ前後の雨を観測しています。また、先日の台風10号では、台風から離れた関東や東海でも土砂崩れや河川氾濫による被害が発生しています。
こうした災害のニュースが聞こえてくると、不動産を取得するならリスクの少ない立地を選びたいと考えるのは当然ですし、水害リスクが低い立地は価格が高くなる傾向があると考えられます。今回は、水害リスクが不動産価格にどの程度の影響を及ぼしているかを調べてみました。
新築戸建は1mの浸水リスクで4%ダウン
今回は、2024年1月から7月末までの間に東京23区内で取引された新築戸建の成約価格215件に対して重回帰分析を行うことで、洪水リスクに対する価格への影響度を調べています。重回帰分析は、複数の変数(説明変数)を用いて、ある結果(目的変数)を表す式をモデル化し、説明変数がある結果をもたらす影響度を推定する統計的手法です。今回の目的変数は建物1m²あたりの成約価格となります。この成約価格をもたらす説明変数は、土地面積、建物面積、最寄り駅からの徒歩分数、東京駅からの直線距離、東京駅からの方位、洪水ハザードマップにおける予想最大浸水深としています。
新築戸建のデータによる分析結果は、全ての説明変数について統計有意(推定された値が統計的に間違っているとは言えないという結果)となり、予想最大浸水深1mあたり4.23%価格が下がるというものでした。予想最大浸水深0mの場所と3mでは価格は12%以上変わるということになります。このように、戸建価格は最大浸水深の影響をかなり受けていることが分かりました。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
リスク感度低いマンション
中古マンションについても同様に分析してみます。2024年8月1日から31日までに取引された23区の中古マンション626件に対して同様の分析(説明変数には所在階、築年数などが追加しています)を行ったところ、予想最大浸水深1mあたり1.44%価格が下がるという結果でした。中古マンション価格も最大浸水深の影響を受けているということになりますが、戸建住宅よりもその影響度が少ないという結果になっています。
読者の皆さんもお気づきだと思いますが、浸水リスクがある場所でも所在階が上の階ならば気にならないということなのだと思います。また、万が一のことがあっても、共用部に被害があるだけで、これに対する修繕費は管理組合で徴収している修繕積立金から拠出されるので、直接的な痛みを感じにくいということもあるかもしれません。
とはいえ、マンションでも地下駐車場や機械式駐車場が浸水で被害にあうと修繕費用はかなりの支出になるケースもありますし、地下に電源設備があるタワーマンションが浸水によって数日間ものあいだ機能不全に陥り、エレベータが動かない、ポンプが動かないので水が使えない、排水できないといった状況に陥ったというケースもあります。
都区部の西側でも浸水リスクがある場所は多い
東京都区部の東側は低地であることから、ほとんどが浸水する予想がなされているエリアになっています。一方、西側は台地が多いため浸水するリスクが少ないと思われがちです。しかし、西側の台地には複数の河川が走っており、河川の周辺は当然ながら低地や谷となっているケースが多々あります。こうした場所は浸水する可能性のある土地になっていることが多いものです(ちなみに、地震の際にも揺れやすい土地であることが多いです)。
今回用いたデータで、台地が比較的多いとされる西側のエリア(品川区、目黒区、世田谷区、杉並区、中野区、練馬区、板橋区、北区、渋谷区、新宿区、文京区、豊島区)についてみると、戸建は73件、マンションは307件のデータがありました。そのうち、浸水予想が0.5m以上の地点はそれぞれ32件(うち16件は3m以上)、112件(うち61件は3m以上)となっていました。国土交通省の重ねるハザードマップを見ていただくと、都区部の西側にも多くの場所について浸水リスクがある場所があることが分かります。
浸水リスクがある場所は買うべきではないのか?
ところで、浸水リスクがある立地の不動産は購入してはいけないのでしょうか?筆者は、購入するならば、そのリスクを知った上で購入するなら問題はないと考えています。
例えば、予想最大浸水深が0.5mであれば、基礎を高くして戸建住宅を建築するという方法でリスクを回避する方法があります。あるいは、0.5m程度であれば気にしない(リスクを受容できる)という判断もあるかもしれません。最大浸水深がもっと深い地域で暮らす場合でも、価格が安くなる分、保険でしっかりカバーしてリスクを移転しようと考えるかもしれません。もっと効率のよい資産運用をしたいので、住宅にはあまりお金を掛けず、リスクも受容するという方もいらっしゃるかもしれません。この場合には、命を守るためにどんな準備をすべきかという点に注力するということになるかもしれません。
このように、リスクを事前に知っていれば、備えることができます。そしてその判断は人それぞれです。何も知らずに購入するのではなく、知った上でどのような判断をするかがとても大事だと思います。
保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。
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