首都圏マンション賃料の上昇は何をもたらすか?

最近、首都圏のマンション賃料が上昇しているという話をよく耳にします。現場からは、マンション価格の上昇が激しく、購入できないケースが多くなっているとの声も聞かれます。首都圏のマンション賃料推移を確認しつつ、今後、マンション賃料が上昇を継続する可能性と不動産市場に及ぼす影響について考えてみました。

首都圏マンション賃料の上昇は何をもたらすか?

首都圏各所で上昇するマンション賃料

まずは、首都圏のマンション賃料の推移を見てみましょう。次のグラフは、公益財団法人東日本不動産流通機構が公表している「首都圏賃貸居住用物件の取引動向」から、2008年第1四半期~2024年第2四半期までのマンション賃料水準の推移を示したものです。

首都圏 賃貸マンション賃料単価の推移

(公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向」より筆者作成。なお、マンション賃料については、4期移動平均としている。)

グラフは、東京23区、横浜市・川崎市、埼玉県、千葉県のマンション賃料推移です。東京23区は2008年9月のリーマンショックの影響で、外資系企業の多くが都区部から撤退したこともあり、2009年第1四半期から下落傾向となります。2012年末の政権交代以降、異次元金融緩和を通じた景気刺激策が奏功し、23区のマンション賃料は2013年第3四半期を底に上昇トレンドに入ります。2020年第2四半期からは横ばい傾向となりますが、2023年第2四半期から急激な上昇トレンドとなっています。

横浜市・川崎市は23区ほどの賃料の高低差はないものの、2008年以降は緩やかに下落し、2016年ころから緩やかな上昇傾向を見せています。そして、2023年第3四半期ころから急激な上昇を見せています。東京都下、埼玉、千葉は緩やかな下落傾向または横ばい傾向が長く続き、2020年から2022年ころから上昇トレンドに変わっています。程度の差はありますが、2008年第1四半期ころから下落トレンド、または横ばい傾向が長く続き、ここ数年は明確な上昇傾向を示しているという状況です。

保有する物件・土地の定期的な資産価値の確認がポイントです。

マンション賃料が上昇した理由と今後の予想

2020年春頃から、日銀がコロナ禍対策としてお金の流通量を大幅に増やし、景気刺激策を行った結果、不動産価格はこれまで以上の上昇傾向となりました。不動産価格が上昇すると、賃料の変化は遅れてやってきます。これは賃料の遅効性と呼ばれる特徴です。原因の1つは、賃貸借契約を大家から解除するにしても、家賃を上げるにしても、「正当な事由」という高いハードルがあるため、即座に賃料に反映しにくいというものです。もう一つは、マンション価格は資産価格なので、「将来」の期待収益の現在価値の合計が現時点の価格となりますが、賃料は現時点の対価であるという点があります。つまり値上がりが期待されているとき、不動産価格は将来の期待ですぐに反応しますが、賃料は「今」に着目しているのですぐには反応しないのです。

賃料が上昇している理由としては、物価高も背景にあります。都市部などで賃上げや資材高騰で住宅の維持費用が増加していることが背景と言われています。また、住宅価格が高くなりすぎて買いにくくなったこと、新築も中古も供給が少ないということから、借りるという選択をするケースが増えているということも背景にあると言われています。この状況が今すぐに大きく変わるということはなさそうなので、まだまだ賃料は上昇する可能性がありそうです。

先ほどのグラフをもう一度見てみましょう。各地域における賃料上昇率が大きく異なることに気づくと思います。2018年第1四半期と2024年第2四半期とで賃料上昇率を比較すると、23区は4%であるのに対して、横浜市・川崎市は10%、埼玉7%、千葉9%となっています。このことは、相対的に高い23区の賃料であっても、まだまだ上昇余地があることを示唆していると筆者は考えています。実際、2008年の横浜市・川崎市、埼玉、千葉における平均賃料に対する23区の賃料は、約1.41倍、1.87倍、1.77倍でしたが、現在はそれぞれ1.33倍、1.78倍、1.67倍に留まっているのです。つまり、23区の賃料は他の地域との相対関係からも、上昇余地があってもおかしくないということです。

不動産市場にもたらす影響は?

ところで、新規契約賃料はすぐに市場の動向に合わせて反応しますが、既に借りている方の賃料は市場に合わせて変動することはありません。更新のタイミングで貸主から賃料を上げてほしいと申し入れがあれば、交渉が行われる、それに合意すれば賃料が上がるというステップを踏むからです。合意に至らなければ、賃料は据え置きということもあります。

したがって、今後、市場の賃料上昇が継続するなら、契約中の賃料も1~2年で上昇する可能性があると思われます。今後、1~2年の間、貸主から更新時に賃料アップの申し入れを受けるようになる、あるいは、更新時に賃料値上げになるのではないかと予想する人が増えれば、比較的購入しやすい郊外への移転を考える人が増えるのではないでしょうか。都区部から郊外への移転となると、住まいを借りるという判断だけでなく、住宅を購入する選択肢も視野に入ってきます。結果として、このままマンション賃料が上昇するならば、1~2年後には郊外の住宅を取得するという動きが増加する可能性があると筆者は考えています。

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