「ウィズ・コロナ」リモートワークで浮かぶ街、沈む街の条件

新型コロナウイルスの影響でビジネスパーソンの働き方に大きな変化が起きている。外出自粛で都心のオフィスワーカーの多くは自宅に引きこもってのリモートワークを余儀なくされ、出社が必要な場合も時間差での通勤や時短勤務が当たり前になりつつある。つい最近までは日常だった朝夕の通勤ラッシュや、仕事帰りの人々でにぎわう繁華街の光景を目にすることもなくなって久しい。

こうした“新しい生活様式”が今後も定着するようなら、人々が暮らし、集まる街のありようも変わらざるを得ない。新たなニーズで潤う街がある一方で、人影が消えて衰退する街もあるだろう。コロナインパクトで浮かぶ街と、沈む街を予測してみよう。

街並み

郊外でも交通利便性の高いターミナル駅の価値が高まる

今回のコロナインパクトで大きく変わったものと言えば、やはり朝夕の通勤風景だろう。東京都心をめがけて鉄道網が放射状に広がる首都圏では、混雑率100%をはるかに超える通勤電車が秒単位で人々を運んでいたが、今や平日の「通勤時間帯」でも座席が埋まらない状態となっている。

外出自粛で通勤がままならなくなった結果、多くのオフィスワーカーは自宅でリモートワークに励むようになった。緊急事態宣言が解除されたことで徐々に通勤客の数は増えると考えられるが、元の状態には戻らないとの見方もある。そうなると、これまでのような「都心に近い街ほど資産価値が高い」というセオリーが崩れる可能性もあるだろう。

一般的に都心に近い街は地価が高く、自宅として選択できる住宅の面積は小さくなる。それでも今までは通勤利便性を優先し、「家族と過ごす時間を確保するために」と自分に言い聞かせて少しでも都心に近い街に住まいを構えるケースが多かった。そうして生み出された“家族との時間”の多くは、残業をこなすために費やされることも少なくなかったかもしれない。

だが、リモートワークで通勤の必要がなくなれば、ゆったりとした面積の家に住める郊外の街を選ぶ人が増えるのが自然な流れだ。子どものいる家族などでは、声やテレビの音などが気になるリビングから離れた場所に仕事用のスペースが確保できればなおありがたい。

とはいえ、郊外ならどこでもよいというわけではない。いくらリモートワークとはいえ、ときどきは会社のある都心に出社したり、他社へ打ち合わせや商談で直行するときもあるだろう。そうしたときの利便性も考えると、都心へのアクセスはもちろん、異なる沿線を使って多くの街に行きやすい駅、すなわち複数路線が利用できるターミナル駅の価値が高まると考えられる。

首都圏でいえば、例えばつくばエクスプレスと東武野田線(東武アーバンパークライン)が交差する流山おおたかの森駅や、同じく東武野田線と東武伊勢崎線が利用できる春日部駅、JR横浜線と田園都市線が交わる長津田駅などだ。こうしたやや郊外にありながら複数路線で多様なエリアにアクセスできる街は、今後のリモート時代に「住みたい街」として人気が高まるのではないだろうか。

また、通勤時間のないリモートライフでは、生活にゆとりができるため趣味や家族との時間を楽しむ機会が増える。そうしたゆとりの時間を充実させやすい街、例えば海の近くや大きな公園がある街は人が集まり、価値も高まるだろう。具体的には藤沢や茅ヶ崎といった湘南エリアや、航空公園のある所沢、21世紀の森と広場で知られる松戸などが挙げられる。

タワーマンションの建つ都心の街は「浮かぶ街」となる?

リモートライフの定着で郊外の街の価値が高まれば、相対的に都心の街の価値が低くならざるを得ない。だが、仕事のリモート化が思ったより進まなかった場合は、逆に都心の街の価値は今より高くなるだろう。密閉、密集、密接の“3密”状態が避けられない通勤ラッシュを避けて都心に通うには、勤務先の近くに住むことが最善の策となるからだ。

では都心のなかでどんな街が「浮かぶ街」になるかといえば、例えばタワーマンションなど大規模なマンションのある街だと考えられる。都心のマンションはコンパクトな広さの住戸が多く、その意味ではリモートワークに集中しづらい環境かもしれない。

だが、大規模なマンションは共用施設が充実しており、スタディコーナーといった仕事や勉強のためのスペースを設けている物件が少なくない。最近の時流に乗り、Wi-Fi環境などを完備したコワーキングスペース付きのマンションも増えている。

都心の街

タワーマンションのある街は都心には数多くある。特に中央区や港区の湾岸エリアは八重洲や丸の内、高輪ゲートウェイや品川といった、再開発で高度な都市機能が集積しつつあるエリアに近いため、将来的にも価値が高まることが期待される。

一説には東京五輪の開催が1年延期されたため、中央区晴海の選手村で開発されるマンション群の先行きが懸念されるとの声も聞く。たしかに同マンションは選手村で使用した建物をリニューアルして引き渡されるため、開催延長で入居時期がずれ込む可能性はあるだろう。だが当初の入居予定は2023年3月となっており、来年の五輪閉幕後からでも期間は相当ある。また同マンションは最多専有面積が約85㎡と、湾岸のなかでは広めの住戸となっており、リモートワーカーにとっても魅力的な物件となるはずだ。

江東区の豊洲や川崎市の武蔵小杉など、都心に近くタワーマンションが多く建つ街はどうなるか。これらの街の最大の弱点は鉄道インフラだ。いずれも複数路線が乗り入れるなど交通利便性には優れているが、毎朝の通勤ラッシュ時における駅構内の混雑度はかなりのものと言われている。再び以前の状態に戻るようなら、密集によるリスクは避けられないだろう。

だが、状況が変わる可能性もある。仮にリモート化の普及が遅れたとしても、時差通勤や出社日の削減などが進めば駅の混雑度も緩和されるだろう。通勤時の駅での密集リスクが回避されるのであれば、交通利便性や買い物などの生活利便性といった面で、「タワーマンションの街」の優位性は維持されると予測できる。

賃料が割高な街では持ち家へのシフトが進む可能性も

ここまではリモート化の進展が街に与える影響について考えてきたが、ほかにもコロナショックをきっかけに街の浮沈を左右しそうな要因は少なくない。例えば家賃の問題だ。経済活動の自粛で収入が激減した世帯が直面した問題の一つに、家賃の支払いがある。

新型コロナウイルスの影響で家賃の支払いが困難になった世帯向けには、家賃相当額の給付金が支給される「住居確保給付金」の制度がある。ただし一定の収入要件や資産要件があり、例えば東京23区の単身世帯の場合は月収13.8万円以下で預貯金額50.4万円以下が目安だ。給付の対象とならない世帯は、コロナショックによって賃貸住宅のリスクを痛感させられたことだろう。

もちろん、持ち家を購入して住宅ローンを返済している世帯にとっても、収入の減少は大きなリスクには違いない。だが、住宅ローンの返済については銀行に相談することで、返済額の一時的な軽減などが可能な場合が多い。この点は家賃の支払いに比べて柔軟性があるといえるだろう。賃貸住宅でもいざとなれば家賃の安い物件に引っ越す方法はあるが、一般的には賃料を下げることは面積や立地などの居住水準の低下を伴う。

こうした賃貸住宅のリスクが認識されたことで、賃貸から持ち家へと居住形態のシフトが進むことが考えられる。その動きは特に賃料が割高とされる街で現れる可能性が高いだろう。家賃が割高かどうかは、賃貸経営上の投資の指標である利回り水準が目安となる。

例えば、東京カンテイが発表している新築マンションPERは、分譲マンションの新築価格が、同じ最寄駅(徒歩20分圏内)の分譲マンション賃料の何年分に相当するかを求めた値だ。一般的に、マンションPERが低ければ賃料見合いで新築価格が割安とされる。逆に言えば物件価格に対して賃料が割高ということだ。

首都圏新築マンションPER上位10駅(賃金水準に対して価格が割安な駅)

東京カンテイ「新築マンションPER2019」。マンションPER=マンション価格÷(月額賃料×12)

この新築マンションPERが低い駅の上位10駅を示したものが上の図表だ。1位の京王多摩センターはPERが15.96となっており、マンション価格が16年弱の賃料に相当することを示す。首都圏の平均PERは24.36なので、かなり短い期間の賃料で物件価格を回収できることになり、投資家にとっては魅力的な数値だ。だが、マンションを借りる側にとっては「借りるより買ったほうが割安」という理屈にもなる。

これらの街の中には、周辺相場に比べて割安感の強いマンションが分譲されたためにPERが低く算出されたケースもある。そのため、ここに挙げた街で必ず賃貸から持ち家へのシフトが強まるとは限らないが、一つの目安となるだろう。

不動産・中古物件を買う

物件情報・売却に関することならこちら

ご留意事項  

本コンテンツに掲載の情報は、執筆者の個人的見解であり、当社の見解を示すものではありません。
本コンテンツに掲載の情報は執筆時点のものです。また、本コンテンツは執筆者が各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について執筆者及び当社が保証するものではありません。
本コンテンツは、情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
本コンテンツに掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、当社は一切責任を負いません。
本コンテンツに掲載の情報に関するご質問には執筆者及び当社はお答えできませんので、あらかじめご了承ください。